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19
ふわふわする。まるでハンモックに揺られているかのように気持ちがいい。まだ、起きるのも勿体ない気がする。
「ギ……、しん……な……や……す!」
「わざ……じゃ……。つ……な」
「つい……な……よ!」
まだ寝ていたいのに、男性の争う声がする。
「ん……」
重たい目蓋を上げると知らない天井が目に映る。
ここどこだ?騒がしい方へ目をやると、アークとポチ……じゃなかったワンダーさんがいた。
「まだ、16歳の子供なんですよ!ギルマスにとっては赤子と同然なんです!無茶するから骨折れてたんですからね!もう、反省してください!」
バーンと扉を強く締め、出ていくワンダーさん。アークは頭をポリポリとかいて、ばつが悪そうな顔をしていた。
「アーク、さん?」
「おぅ、ジン、目覚めたか。悪かったな。大丈夫か?」
ゆっくり体を起こし、ベッドから立ち上がった瞬間、全身の痛みで「いっ」と声に出た。
慌ててアークが駆け寄り、ゆっくりベッドに座らせてくれた。
「ジン、急に動くな。どこが痛い?」
心配そうに覗き込むアークには申し訳ないが違うんだ。この痛みは……。
「……き……う」
「えっ?」
「筋……肉……痛」
「は?筋肉痛?あー、身体強化か」
コクコクと頷くと、アークが治癒魔法をかけてくれた。ほのかに暖かくて気持ちがいい。痛みも少し治まった気がする。
「はぁー、ありがとうござい……」
言い終わる前に、ぐぅぅぅぅと腹の虫が鳴った。
「……くっ、ククク」
はず!そう言えばこっちに来てから飯食べてないわ。今何時だ?
壁に掛かっている時計を見ると、針は8時過ぎていた。この世界は1日32時間。時計は一周16だから、ざっと計算して前の世界の夜18時ぐらいだ。
「あー、すいません。……昼、食べてなかったんで」
「ククク、そっか。怪我の詫びに夕食を奢ろう。動けるか?」
体を少し動かしてみる。うん、さっきよりいい気がするが、一歩歩くとズキッと痛みが走る。
「すまん。俺は治癒が苦手でな。下にいる奴に治癒かけてもらうか?」
「だ、大丈夫です。だいぶ楽になったのでっ……ふぁ!」
フワリと体が浮いたかと思うと、上半身のバランスが崩れそうになり慌て近くのものに掴まった。
「……高い」
視線が高い。腕を伸ばせば天井に届く高さに、懐かしさを覚え思わず、笑いそうになる。今俺は小さい子がよくされている片手抱っこをされていた。
掴まっていたもの……アークがクククと笑い出す。アークを見ると、ニヤッとイタズラが成功して嬉しそうに笑っていた。
あぁ……父さんは本当に変わらないな。
あの時は首に掴まったけれど、今掴まっているのはアークの頭。何だか可笑しくなって思わず笑う。
「ふはっ」
「よし!ジン、飯食いにいくぞ!」
抱っこしたまま連れていってくれるらしい。恥ずかしい気もするが、嬉しいのでこのままでいたい。
「おー!」
アークもノリノリの俺が可笑しいのかクククと笑っている。
「何か食べたいのがあるか?」
「うーん、アークさんの食べたい料理で」
「じゃぁ、ギルド飯スペシャルだな」
「えー、あれ、めっちゃ美味しいけど量が多いよ。俺は無理!」
「そうか?冒険者なら……」
「"完食してこそ一人前!"、でしょ」
ニヤッと笑う俺に、アークが目をキョトンとさせる。
「冒険者の父さんがよく言ってたセリフだから」
「へー何だか親しみを感じるな」
「うん、絶対、父さんと気が合うよ」
だって、同一人物だからね。
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