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「ごちそうさまーおいしかったー」
冒険ギルドの居酒屋件食事処の味は、はっきり言って普通だ。だが、ギルド飯スペシャルは別。シェフのイーダさんが、その日の気分で作っている最高の料理でほっぺたが落ちるぐらいうまい。噂によるとイーダさんはメルゾーラ城の料理人だったらしい。美味しさに納得。
値段が普段のメニューの5倍ぐらい高いが、それ以上の価値があるので、懐が暖かい人は結構頼む人が多かったりする。ただし、1日10食限定。もちろん、毎日完売です。
「……もういいのか?あんまり食べてないだろ?」
「もう、お腹いっぱい。俺、燃費がいい方だから」
俺と仲良くカウンターに座っていたアークが、ちょっと身を引きながら、俺を頭から爪先まで見つめると、うんと頷く。
「あぁ、だから大きくなれないのか」
「いや!俺が居たところは、これでも大きい方だから!」
「……そうかそうか」
哀れみな目で俺の頭を撫でるな!本当だから!
アークが俺の食べ残したエビフライをヒョイと口に入れ咀嚼し、嚥下する。
「ところでジン。今日はこれからどうするんだ?」
チラリと時計を見ると22時だった。ちなみに前の世界で言うと20時。
そろそろ宿を見つけないとな。あっ、その前に門に行かなきゃだな。
「門に行って身分証返してお金もらってくる」
「そうか、途中まで一緒に……」
「俺、迷子になるほど子供じゃないよ?」
「いや……わかってるが……」
眉間に皺を寄せるアークの眉間をグイグイと伸ばしながら、ニヤッと笑う。
「それに、もう俺、仮でも冒険者だから。"自分の事は自分で何とかする。それが冒険者だ!"ってね」
「……それも父親か?」
「そう」
アークは大きなため息と同時に頭をガシガシと頭をかく。
「本当、お前の父親に会ってみてぇわ」
「……」
会いたいか……目の前に鏡を置いて『父さんです』って言ってみるか?
まぁ、冗談は置いといて、『自分は前世のジンの記憶を持っている召喚に巻き込まれた異世界人です』って言ったらアークはどんな反応するだろう……。
ふざけるなって怒るか、白い目で見られるか、それとも、喜んでくれるか……。まぁ、何にしても摩訶不思議な事、信じてもらえないだろうなぁ。これ以上ここに居たら余計な事を言ってしまいそうだ。
「アークさん、そろそろ行くよ」
「あぁ。……ジン、何か困ったことがあったら、俺でも、ギルドでもいいから頼れ」
「うん、ありがとう。……あのさ、また、会えたら奢ってくれる?」
「あぁ、いいぞ。またな」
アークに手を振ると、カウンターにいたはずのイーダが何かの袋を持って後ろに立っていた。
「あっ、ご馳走さまでした」
「これ、やる」
袋を開けてみるとクッキーが入っていた。
これ、イーダさんの手作りクッキーだ。俺が好きでよくイーダさんがおやつにと作ってくれたやつだ。
「いいんですか!ありがとうございます」
イーダさんは頷くと、そっと頭を撫でられた。
「また、こい」
「はい!」
外に出る際振り返り、お礼とまたねを兼ねてアークとイーダに手を振った。
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