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「お……、……ン、ジン!」 「ん……んにゃ?」 名前を呼ばれ、肩を揺すられ、起こされた。 折角久しぶりに気持ちよく寝ていたのに……誰だよ。 ゆっくり目を開けると、眉間に皺を寄せた、どこからどう見ても不機嫌なアークがいた。 「何?アーク、さん、どうして、ここに?」 「見回りだ。ジンはどうしてこんなところで寝ているんだ?テントは?」 「あー、宿いっぱいで仕方なく。テントはないよ」 アークは、はぁーと大きなため息を付くとガシガシと頭をかく。 「ジン、そういう時はギルドを頼れ」 「別にこれくらい大丈夫だよ?」 「ここは治安がよくない。ジンは可愛……じゃない、あー、まだ仮冒険者、じゃない、危なっかしい?……いや、違うな……」 首を傾げ、顎に親指と人差し指を置きながらブツブツと呟くアークを横目に体を起こし欠伸をする。 まだ、非常に眠たい。久しぶりに熟睡出来そうなのに……。 「アークさん」 首をコテンと傾げ、寝てもいいかな?と目で訴えると、アークは瞬きを数回した後、目を細め愛しそうに優しく笑った。 「あぁ、そうか。どうやら俺は、ジンが心配でたまらないらしい」 「心配?」 「あぁ。ジン、泊めてやるから俺の家に来い。もちろん、金は要らん。俺の善意だからな」 ニヤッと自信満々に笑うアークの表情に、強い眼差しに、懐かしさを感じ思わず笑う。 「ふふ、よくわからないけど、ありがとう?うわ!」 アークは俺の脇に手を入れ、ヒョイと軽々抱きかかえると、俺の頭を肩に乗せ、ポンポンと背中を叩いた。 「眠たかったら寝ていいぞ」 「……ん」 アークの温かさと歩く振動に揺られながら再び夢の世界へ入っていった。 「ん……眩しい……」 あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑り、腕で光を遮る。そのまま耳を澄ませば、うっすらと聞こえる人々の生活音と一定のリズムで繰り返し鳴く鳥の声が聞こえる。それと……。 「いい、匂いがする……」 パンの焼ける香ばしい匂いと、この香り。懐かしくて暖かい、安心する木の匂い……。 あぁ、そうだ。俺の家の匂いだ。 光を腕で遮りながらゆっくりと目を開けると、見慣れた天井が目に写り、脳が一瞬バグる。 「……俺の、部屋じゃない?……いや、俺の部屋、だけど、違う?あれ?夢?俺、今、誰だ?」 体を起こし、辺りを見渡すと、シンプルな机と焦げ茶色のクローゼットがある。俺のだ。 そうだ、クローゼットの扉に姿見があったはず。 ベッドから起き上がると、体中に痛みが走る。グッと歯を噛み締め痛みを我慢し、裸足でクローゼットの前へと歩いた。そこに映ったのは……。 「……夜見の姿だ」 ということは夢じゃない。昨日あったことは本当のこと。そうだよ、何よりこの筋肉痛が証拠だ。 「ん?目の色が薄くなってる?それに、白髪?」 よく見ないとわからないが、俺の瞳は若干紫が入っていて、黒紫に見えていた。が、今は紫の瞳に見える。それに、数ヶ所黒髪が白髪に変わっていた。 ……前世の俺、ジンの瞳は紫で、髪は白銀だったな。あっ、ベル達の治癒が原因か?うーん、今度聞いてみよう。 ふと、机の方に目を向けると、初めてのダンジョンで倒した魔物の牙のペンダントと青い涙型のネックレスが壁に飾ってあった。 「懐かしい……あっ……」 一瞬、母上の笑顔が、泣き顔が、脳裏に巡った。そして、母上との最後の別れの時、約束したことを思い出し、胸が締め付けられるほど苦しくなった。 そうだった……どうして俺は、母上との約束を……。
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