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「……その青いネックレスな、俺の息子の物なんだ。息子と言っても、血の繋がりはない。だが、俺にとってかけがえのない家族で、本当の息子のように思っていた。 ……ジンは、あぁ、俺の息子は、お前と同じジンって名前でな、初めて出会ったのは、ジンが11歳の時だった。小さな子供だったが、何て言うのかな……達観した大人のような目をしていた。きっといくつもの辛い経験をしてきたのだと思う。……詳しいことは話してくれなかったが、俺はジンを見てそう感じた。 ジンはクールであまり表情を出さない子だったが、実はさみしがり屋の怖がりで、それなのに、甘えることが出来ない子供だった。俺はそんなジンが可愛くて、いつも構い倒してたよ。ジンは嫌がっていたみたいだがな」 苦笑いを浮かべながら、俺を見るアークにズキリと胸が痛む。 嫌がってなんかなかったよ。嬉しかった。ただ、どう反応したらいいかわからなかったんだ。 無意識に胸に手をやるが求めていた物がそこになく、仕方なくそのまま服を握る。 アークはその俺の行動を見て一瞬驚いたが、すぐに納得したように「あぁ、そうか……」と呟いた。 「ジンは……母親の形見であるネックレスをいつも大事に身に付けていた。無表情のままそれを触る癖があったが、今考えればそれが彼なりの何かの合図だったのかもしれない。もっと早く気付いてやればよかった……」 グシャリと髪を掴み溜め息をつくアークに俺は何も言えずにいた。 あの糞屋敷にいた頃、躾として、表情を少しでも出せば常に暴力を振るわれた。表情を出さないのが貴族だと言われ、俺は泣くことも笑うことも怒ることも出来なかった。だからかな、そんな癖があったなんて気付かなかった……。 「暫くして、ジンに友達ができた。年相応に見せた表情がどんなに嬉しかったことか……表情も少しずつ出るようになって安心したよ。まぁ、ヤンチャな友達のせいでジンに悪影響が出るんじゃないか心配したがな」 うん、懐かしいな。あの時のバルトは理解不能な行動ばかりするから大変だったな。でも、楽しくて、面白くていつも笑ってたっけ。 「まぁ、その悪友の影響でジンは騎士を目指すようになってな、数年ソロ冒険者をやってSランクになった途端、俺のジンが、あの悪友に、無理やり連れ去られたんだ……ふふふ」 うわ……アークの笑い怖いんですけど!と言うか、無理やりだっけ?確か貴族と国民混合の実力で入る第3騎士団が出来るから、そのテストが今日あるって知って、バルトに担ぎ上げられ超特急で……あれ?無理やりだな。あはは。 「それから、ジンが騎士団に入って、会うことが少なくなったが、1ヶ月に数回、俺に気遣って帰って来てくれてたよ。ただし、あの悪友も一緒だったが……幸せそうに笑ってるあの子を見て何も言えなかったな。 ……それから、5年後、ジンはスタンピードの戦いで、亡くなった……。 あの日、スタンピードが終わった事を知って、ジン達が無事に帰ってくると信じて疑わなかった。仕事に追われながら、近い内に3人で飯でも食べに行こうかと計画してたんだ……なのに……まさか、亡くなるなんて……思いも、しなかった。 ……知らせを受けて急いで城に行くと、何十、何百人もの騎士が亡くなっていた。家族や友、恋人達の嗚咽や泣き声、叫び声が入り交じり、これが現実なのか夢なのかわからなくなる程、脳が麻痺したかのように今の状況が理解できなかった。 ……呆然と眺めていた俺は、その中にジンの悪友を見つけた。うずくまり泣き叫ぶ彼の側には、目を閉じ、横たわるジンがいた。まるで、ただ、寝ているかのようだった……。 ジンに触れて、抱きしめて、体が冷たいと感じて、ようやく死んでいるのだと理解した時、後悔が押し寄せた。 なぜ!なぜ、もっと、一緒の時間を作って、抱きしめて、遊んで、甘やかして、我が儘をたくさん聞いてやらなかったのだろうって……」 「っ!」 違う!そんなことない!いっぱい抱きしめてもらった。いっぱい遊んでもらって楽しかった。いっぱい甘えてたし、我が儘も言って、たまに怒られたりもしたよ。毎年欠かさず誕生日も祝ってくれたし、いっぱい誉めて頭を撫でてくれた。だから、だから、泣かないでよ……。 静かに涙を流しながら話すアークに、いてもたってもいられず、ギュと強く抱きしめた。 「……俺は、ちゃんとジンの親になれてたのだろうか?ジンの優しさに甘えていなかっただろうか?色々な後悔や罪悪感が脳裏に巡って、8年も経つのに未だに消化しきれていないんだ。……わかっている。ずっと考えていても意味がないって。もう、答えてくれるジンがいないのだから……」 数秒間の沈黙後、俺は目を閉じ息を吐いた。 変に思われるかもしれない、偽善だと罵られるかもしれない。でも、それでもいい。アークに、父さんに、本当の気持ちを伝えたいから……。 俺は立ち上がり、俯き泣いているアークをぎゅっと強く抱き締めた。 「" 父さん、後悔?罪悪感?なに言ってるの?俺は父さんといてめっちゃ幸せだったよ。最高の父親で、最高の家族だった。人として欠陥だらけだった俺を、拾ってくれて、育ててくれて、愛してくれて、本当にありがとう。だからもう、泣かないで……。ねぇ、俺からの最後のお願い聞いてくれる?もう、俺に囚われないで。父さんの、自分の人生を生きて欲しい。父さんには幸せになって欲しいんだ。俺が安心して眠れるためにも、ね。愛してるよ……父さん "」 ガバッとアークが勢いよく顔を上げた。お互い涙を流している。アークの泣きながらポカンと口を開き驚いている表情がなぜかおかしくて笑った。 「ここにジンさんがいたら、そう言うんじゃないかな。俺、ジンさんと同じ名前だから、何となくわかるんだ。なーんてね」 涙を袖で拭いた後、パチッとウィンクするとアークはおかしそうに笑い破顔した。 「あぁ、そうだな。……本当、あの子らしい言葉だ。ジン、ありがとう」
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