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27
ふとバルトと目が合い、無意識に前世の挨拶代わりの合図をする。
ニッと笑いながら右手を挙げ、人指し指と中指を揃えると唇に持っていきウィンクしながら投げキッス。
「あれ?」
いつもと違うバルトの反応に首を傾げる。いつも合図を送ると苦笑いをしつつも、同じ動作を返してくれるのにな。今はこれでもかと言うほど目を見開き、固まっている。
あれ、大丈夫か?前向いてないと危ないよな……あっ、そう言えば、俺、今、夜見だ。つい癖でやってしまった……。
どうしようと考えている間に、馬に乗っているバルトは目を見開き固まったまま通り過ぎていった。
「……まぁ、いっか」
俺はバルトに逢えたのが嬉しくてニヤニヤしながら、依頼である薬草探しへと騎士団のパレードとは反対側の門に向かったのだった。
「……あり、得ない」
俺は目がいい。遠くてもはっきりと顔か見える視力を持っている。だから、今見た事を頭が処理できないでいた。
あれから8年。もう、いないとわかっていても無意識にジンの姿を探していた。
ジンの優しく穏やかに笑う表情、男性にしては少し高声のハスキーボイス、怒ると可愛くて、ついふざけたことすると怒り呆れながらも最後は笑って許してくれる心の広い人。出会いこそ最悪だったが、今でも俺はジンを……。
……なのに、ジンを忘れたくないのに、鮮明に思い出せない時がある。そんな時はジンの父親を無理やり捕まえて飲んで騒いで、ジンとの思い出を語っている。まだあの家にいて、ひょっこり現れて俺の名を呼び、仕方ないなっと料理を出してくれるのではないかと。
だからさっきの知らない男、いや、フードを被っていたが少年だった、紫の瞳をした少年のあの合図を見て、疑いの余地もなく、「あぁ、ジンだ……」と感じ、俺の心臓が、全身が、喜んだことに驚いた。
そんなはず、ないのに。
俺はハッと我に返り、先ほどのいた少年の方へ振り返たが、誰もいなかった。
あの合図は距離がある時、お互いが分かるようにと、俺とジンが決めた2人でしか知らない挨拶。
「俺が見せた、幻か……」
幻を見たにせよ、見たこともない少年だった……。だったら幻じゃない……本当にいた?
ざわざわと胸の辺りが騒ぎ出す。今にも駆け出しその少年を探し捕まえ聞いてみたい衝動にかられるのをぐっと我慢した。
「団長?何か気になることでもありましたか?」
隣にいた団員から話しかけられ、己の思考を無理やり引き剥がす。
順序を間違えるな。もう絶対失敗はしない。忘れろ。あれは俺が作り出した幻想だ。
3度ほど頭を振った後、呼吸を整える。
" 何があろうとも、常に冷静であれ。 "
母の言葉を思い出し、パチンと頬を叩き、第3騎士団長の顔に戻る。
「何でもない、行くぞ」
数名の団員達を引き連れ、8年前の地獄の場所へと向かった。
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