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「ジーン!」
遠くから俺を呼ぶ声が聞こえ、振り向いた瞬間、猛スピードで馬に乗ったアークが、軽やかに飛び降りて数歩で俺を抱き締めた。
「ジン!」
「アークさん!どうしてここに?」
「ダンジョンの見張り番から"冒険者達と黒髪の子供が戦ってる。至急援護を"、と連絡があってな、報告中にデカイ音がしたかと思ったら通信が切れて、調べたらジンがこの辺の依頼を受けたと聞いて……生きた心地がしなかった。また、失うのかと……。ジン、怪我はないか?」
「えっ、うん、ないよ」
アークは一度俺を離し、全身を目視で確認した後、両手で優しく頬を包んだ。
「怪我してるじゃないか!」
あぁ、そう言えばさっきかすったなと思い出す。
「ただの擦り傷だよ。それよりも……」
話を続けようとしたが、アークがそれを制止し、治癒魔法を掛けてくれた。
「俺の『治癒』は弱いから少し残ったな。後で他の奴に『治癒』を……」
「あっ、大丈夫。自分で治します」
「……治癒魔法が、使えるのか?」
「はい」
さっと自分に治癒魔法を掛けると、アークはちょっと驚いた後、ホッとしたように表情を緩めた。
「アークさん、あのダンジョンの事ですが……」
先程起きたことを話すと、アークは一瞬固まりボソリと呟く。
「結界防御も……いや……今は……」
首を左右に振り、息を吐き出すと、ダンジョンの方を見たまま、難しい顔で黙ってしまった。
「……スタンピードの前兆……いや、もう……」
ダンジョンの入口に集まった魔物達を睨み付けながらアークはそう呟いた。
「ジン、あの『結界防御』は、どのぐらい持ちそうだ?」
結界防御は魔力の多さでどのぐらい持つかが決まる。
今回、急なことだったから魔力がちょっと少なかったかも……。
「うーん、たぶん2時間ぐらいかな」
「そうか……」
アークはダンジョンの入口を見つめながら考え事を始めた。
俺は邪魔にならないようにと、数歩下がり問題のダンジョンを見た。ウジョウジョと魔物が集まって今にも壊れそうな感じがする。
そうだよな、急に破られたらヤバいよな。うん、強化しよう。俺ならきっと出来る。
ダンジョンの方角に手の平を向けて、ダイヤのような固い物をイメージしながら大量の魔力を練る。
「『二重結界防御・強化』」
ダンジョンの入口が薄く光り、キーンと音がなる。
よし、成功!更に結界で防いだ。これで少しは安心だな。
うんうんと頷き、アークに報告しようと振り向くと、アークが驚愕な表情でこっちを見ていた。
「……ジン……さっきのは、何だ?」
「ん?見ての通り結界防御だよ。1つだと破れたときに大変だなっと思って二重結界防御をもう1つ掛けてみた。多分これで6時間以上は持つよ。ダメだった?」
「いや……ダメ、というか、結界防御の上に重ねがけするには、魔力が膨大にいる。それをいとも簡単に……」
「あぁ!だからか!俺の魔力多いから、出来たんですね」
「ちょっと待て、もしかして、一度もやったことがなかったのか?」
「うん。でも、本で何度も読んだことがあるから」
前世の俺が持っていたのは水、風、闇の3つの魔法。防御魔法を使えるのは、風、土、無属性の3つの組合せだ。なので、前世では使えなかった。魔法が好きで自分が持っていない属性も勉強したので魔法の知識は結構ある。前世の俺に感謝。
アークが何と言っていいかわからない表情で「それはどう……」と言いかけてやめる。
「……いや、何でもない。ジン、ありがとう」
「どういたしまして?」
微妙な間に首を傾げていると、「ギルマスー」とアークがギルド職員に呼ばれた。
「悪い。ちょっと行ってくる」
手を振りアークを見送ると……。
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