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ぎゅっと強く抱き締めていた少年の腕の力が、ふっと弱くなり、地面にずれ落ちそうになるのを慌てて抱き寄せた。 「寝た、か?」 「はい」 「バルト悪いな。俺が運ぶ」 「……いえ、大丈夫です。俺が運びます」 少年、ジンをそっと抱え直し、お姫様抱っこで歩き始める。 ……この少年を見ていると、なぜか胸が騒ぐ。確かにどこかで見た気がするが……どこだったか……。 紹介される前にアークから聞いた話は、この少年は小さいが16歳だということ。そして、このダンジョンに、魔法士でも難しいとされている結界防御を施したこと。その、結界防御もあと6時間ぐらいで壊れ、スタンピードが起きるかもしれないということだけだ。 はぁ……思い出せん。小柄で白銀メッシュの入った黒髪……こんな可愛い子、絶対忘れないと思うんだが……。 それにしても、この子軽いな……これで16歳なんて、今までどういう生活をしてたんだ……。 考えれば考えるほどモヤモヤが晴れず、アークをチラリと見る。 「アーク……この子は、大丈夫なのですか?」 「あぁ、たぶんだが、身体強化や結界魔法を使ったオーバーロードと、精神的な緊張のものだろう。ジンはまだ冒険者になって浅いからな」 確かに、抱きつかれる前、怖かったと言っていたな。 「ギルマスー!」 大声で叫んで走ってきた男は、俺が抱えているジンを見て、片手で口を押さえた。 「あっ、すんません」 彼はBランク冒険者のダンで、アークの飲み仲間の弟だと紹介された。どうやら、どこか有名なパーティーのリーダーで、ギルドの依頼で新人教育の為このダンジョンにきていたらしい。 「……少年、やっぱ寝ちゃいましたか?」 「どういう事だ?」 アークが眉間に皺を寄せダンに睨むように聞く。 「ちょっ、こわ!睨まんといてください!あー、えっとですね。ダンジョンで怪我して倒れていた俺らに、治癒を掛けてくれたのがその少年なんです。その後も魔法と槍で魔物を倒していたので、魔力切れってとこですかね?魔法かなり凄かったですよ!見たことのない威力の魔法でした。この少年何者なんですか?」 ……それは俺も知りたい。 アークへ視線をやると、顎に手をやりながら、フムと考える仕草をしていた。 「何者かは知らん。だが、俺の家……息子が使っていた部屋に住まわせている」 ジンの、部屋を……。あの部屋は俺とジンの思い出がつまっている場所だ。 無意識にギリリッと奥歯を噛み締める。 アークがチラリと俺を見てポリポリと頭を掻いた。 「あー、俺がな、気になってしょうがないんだ。……まだ本人には言ってないが、ジンの同意があれば、俺の養子にしようと思う」 「はっ?」 同意?養子?結婚ということか?いや、確かに可愛いが……。 「……バルト、違うからな」 「えっ!じゃぁ、歳の差の夫婦ってことっすか!」 アークは目を泳がせている俺に釘を刺すように言った後、ダンに向かって目を細め笑いながらボキボキと腕を鳴らす。 「ダン、お前、指導が必要だな」 「いやっ、だっ、大丈夫です。わかってます!冗談ですって!あっ、ギルマス、少年にお礼を言っといてくださーい!」 ダンはそう言うと、猛スピードで逃げていった。 「チッ、逃げ足の速いやつめ」 そう、だよな。あのアークがショ……なんて、あるわけない、よな。じゃぁ、どうしてこの少年を養子に?ジンの代わりか?いや、アークはそんなことはしないはず……。 疑問を抱えたまま、少し不機嫌なアークと俺はダンジョンを解決するべく、話し合いの場所へと向かった。
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