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階段を駆け下り、玄関を横切り、外へ出る。生きていたら一瞬でびしょ濡れになる所だっただろう。
しかし今は大丈夫。
構う事なく琴子は中庭へと走った。3階から1階の中庭まで全力ダッシュしたにも関わらず、疲労感も息が上がる事も無かった。
死、とは本当にありとあらゆるものから解放されるものらしい。
琴子は花壇に近付き、あるものにそっと視線を置いた。これは生前、琴子が大切に育てていたチューリップだ。
毎日、水をやってちょうど殺された日にやっと咲いてくれた事を思い出す。
せっかく咲いてくれたのにこの雨じゃだめになっちゃうかな。
…グラングランと激しく揺れ動きながらもおきあがりこぼしのように何度も何度も風に立ち向かい、上に向かって咲くその姿に少しだけ、ホッとするが今にも茎がプツリと折れそうだ。
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