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夜の訪問者
ここへ訪問者があったのは、何年振りのことだろう。
太陽はとうに沈み、月が空を淡く照らす時間帯。
いつもならこの時間は灯りを落としているが、今は家にあるだけの蝋燭を灯し、暖炉にも火を入れた。
それから外の寒さで体が冷え切って震える客人に、森で採った香草を煮出した茶を出した。客人は少し迷った様子を見せてからカップに口をつけたが、直後に眉をしかめて、遠ざけるようにカップをテーブルに戻した。
「口に合わなかったか? 悪いな、客が来るのは久しぶりなもんだから。」
長く人里離れた森の奥で暮らしていると、こうして客をもてなす機会は滅多にない。
自分にとっては慣れた味でも、森の外から来た客にとっては、少々刺激が強いようだ。
「それで───お前、名前はなんて言ったっけ?」
こちらの問いに、客人はカップに向けていた不機嫌な視線を上げ、すぐに澄ました顔を作ると短く名乗った。
「ナーシャ。」
「ふぅん、良い名じゃないか。」
「ありがとう。──それより、酷い味ね。魔法使いって、味覚が変わってるのかしら。」
お茶の残ったカップを嫌そうに見て、客の少女はそう言った。
やはり、口に合わないらしい。
「外の世界では、こういうものは好まれないか。この辺りに自生する香草で作ったんだが、そういえば森の外ではあまり見かけない品種だったな。」
自分の分のカップを傾けて、匂いをかぐ。確かに、人里で流通している香草茶よりも、独特の強い匂いがある。
蜜砂糖でも入れれば良かったかと考えながら、カップを置いた。
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