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揺れる水面を呆然と眺めていた、何をしたらいいのか分からない。
両手に抱えた縄を地面に落として、一人そこに立っていた。
何をしているのか、また嫌われるような事をしたのか。
そんな気配も、考えも一切していなかったんだと気付いた。
ただ、俺はこの時…何も感情がなかった…無という感情が相応しい。
怒りも悲しみもない自分は、いったい何なんだろうと水面を眺めていた。
空が暗くなって母さんが探しに来るまで、俺はそこにいた。
心配して走り回っていた母さんに抱きしめられて、申し訳ない気持ちになった。
俺は関わる人に嫌われて、迷惑掛ける存在なんだ。
皆俺からいなくなる、俺は何のためにここにいるのか。
ある日願ったんだ、俺という存在を消して下さいと…
だから俺は生まれ変わったかのように、生前の記憶を取り戻したんだ。
俺はフォルテだけど、違うフォルテになりたかった。
記憶を思い出す前も俺も悪者になりたくなかったんだ。
友達付き合いが苦手な子供で、その積み重ねが歪み大人になると悪役へと成長していた。
俺がフォルテに教えてあげないといけない、友達付き合いというものを…
でも、俺はなんで湖の前に縄を持って立っていたんだろうか。
誰もいないのに、これはイタズラをしようとしていたのか?…いや違う。
目を開けると真っ白な天井が視界に広がっている。
俺は助けようとしたんだ、あの時の俺はイタズラなんて考えていなかった。
俺が無だったのは、誰も信じてくれなかったからだ。
普段の行いと言われたらそれまでだ、言い返す言葉がない。
何故助けようとしたのか、そもそもどういう状況だったか分からない。
もうすぐで思い出せそうなのに、なにかに遮られたかのように分からない。
考えているうちに、眠気に再び襲われて二度目の眠りについた。
『おやすみ、フォルテ』
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