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いてほしい時にいないくせに、いなくていい時はいる。
いるならいるで、黙って見守っていてほしいんだけどな。
カノンはユリウスという言葉に聞き覚えがあるのか、驚いていた。
俺の口からその名前が出るとは思っていなかったと言いたげだ。
カノンの反応からしてあの事を知っているのだろうか。
あの時なにが起きたのか、俺の知らない事実を知っているかもしれない。
ユリウスも他の人のようにやってしまった一人だ。
それだけじゃなく、俺が蛇を捕まえようとした事によってユリウスは湖に落ちてしまった。
身体がなにかにぶつかった気がしたけど、もしかしたらユリウスだったのかもしれない。
だとしたら、俺が無意識にユリウスを湖に落とした事になる。
助けを呼ぶためにたまたま近くを見回りしていた騎士にお願いして、自分でも家に戻って長く丈夫な縄を倉庫から引っ張り出した。
これでユリウスを引き上げるつもりだった。
急いで湖に戻ってきたら、そこには誰もいなかった。
俺は息を切らして、ユリウスがいた筈の湖を眺めていた。
それからユリウスがどうなったのか、探し回ったけど見付からなかった。
あれからユリウスに謝りたかったけど、見つける事が出来なかった。
周りの人に聞こうにも、嫌われていたから俺は聞く事が出来なかった。
早めにカノンに会っていればユリウスにも謝れたのかもしれない。
ほとんど教会にいるカノンは滅多に俺と会う事はなかった。
昨日、偶然庭の掃除をしていて騒ぎに気付いて駆け付けてくれた。
その偶然がなかったら、俺はこうして一歩も踏み出せなかった。
俺が知っているユリウスの話をすると、カノンは少し考えていた。
「謝りたいんだ、ユリウスに…」
「そう、それが彼がいなくなった原因だったんだ」
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