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「ユリウスが、いない?」
カノンの言葉に驚いて聞き返す。
俺の知らない話がそこにあった。
ユリウスは湖から落ちたあの日、俺に会わないために国を出たそうだ。
行き先は分からない、唯一知っているであろう幼馴染みの少年は絶対に口にはしない。
何処で俺の耳に入るか分からないから当然だ。
ゲームでは街に戻ってきていたから、いつ戻るのかは分からない。
でも、俺に会いたくなくて街まで出たのに戻ってきたら会いに行っていいのかな。
街の人達が俺に嫌悪感を向けていたのはこの事があったからだ。
ユリウスの両親は街で有名な仕立て屋だったから噂も広がるのが早い。
「私を含めた周りの人達は理由が分からなかった、きっとこうだろうという妄想の中でしかない、ごめんなさい」
「カノンは悪くないよ、俺がした事なのは本当だから」
カノンも周りの人も悪くない、俺の行いがそう思わせたんだから。
本当のところは分からないが、ユリウスがいない事だけは事実だ。
カノンは「彼に悪意のない事故だったと、伝えた方がいい…貴方が望むなら」と言っていた。
誤解を解くのは大切だ、会いたくないなら手紙を出せばいい。
読んでくれるまで、俺はユリウスに謝り続ける。
街の人達にも俺は迷惑を掛けた償いをする。
言葉が無理なら行動しかない。
俺なりに頑張ってみる。
「カノン、ありがとう…俺、行かなきゃ!」
「お気をつけて」
椅子から立ち上がって、カノンに手を振った。
聖母の像の前で、最後に頭を下げて教会を後にした。
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