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「…、フォルテ…大丈夫?」
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえて、目を開けた。
目の前には心配そうな顔をしているカノンがいた。
その瞬間、さっきまでの光景が思い出されて条件反射で後ろに下がった。
頭を振って、さっきの光景を頭から追い出そうとした。
深く深呼吸をして、ゆっくりと目の前の光景を見つめた。
母さんとカノンがいる、俺の知るいつもの子供の姿のカノンだ。
カノンは驚いていたが、何事もなかったかのように「ボーっとしているみたいだけど大丈夫?」と聞いてきた。
俺、今まで何をしていたんだ?いきなりゲームの景色を見せられたから分からない。
状況が追い付いていなくて、カノンになにがあったのか聞いた。
カノンの話によると、俺が追体験をしているとき廊下に座り込んだまま、魂が抜けたように動かなかったみたいだ。
どんなに声を掛けても反応しなくて、身体を揺すっても変わらない。
俺自身、そういう意識は何もなくて不思議な気分だ。
突然目の前にそんな人がいたら怖いよな。
母さんも心配して、カノンと同じような事を聞いてくる。
あの光景は、いつか現実に起こるかもしれない未来。
俺が、世界の流れに負けて悪役フォルテとして死ぬ場面。
カノンに嫌われて、ミッシェルの言う通りになった。
俺の記憶が戻るのがもう少し遅かったら、もしかしたら、今もまだ俺じゃなかったらきっと無理だった。
フォルテの歪みは早く進み、深く取り返しのつかない事になっていた。
こんな俺と、カノンは友達になんてなってくれないよな。
まだ追体験の名残のような気持ち悪い感情が残っている。
カノンが俺に触れようとしていて、大人のカノンに剣を向けられたシーンが重なる。
頭を抱えて、カノンから離れようとして壁に背中がくっついた。
カノンはそれ以上、俺に触れようとはしなかった。
今のカノンじゃないのに、震えが止まらない。
友達なのに…カノンを怖いと思う自分が本当に嫌だ。
カノンにとって意味が分からないよな、俺が可笑しいんだ。
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