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育ててくれた司祭様くらいしか見せた事はなかった。
こんな私でも、フォルテは幻滅せずにいつも通りでいてくれた。
でも、これ以上フォルテにだらしない姿を見せたくない。
顔を洗って髪を整えると、いつもの自分に近付いた。
食堂に向かうと、教会に住む人達が朝食を食べていた。
誰もいない厨房に入り、自分の朝食を作る準備を始めた。
玉子とベーコンだけの簡単な朝食を作り、トレイに皿を乗せた。
決まった席は司祭様以外にないから、適当に目についたところに座る。
朝食と片付けと歯磨きを終えてから、自分の部屋に戻った。
制服に着替えると、なんだか新しい自分になれたかのような不思議な気持ちになる。
本当の自分は、いったい何処の誰なんだろうか。
聖職者として、物心が付いた頃から浮わついた気持ちは禁じられていた。
欲を出す事すら許されず、一人だけと仲良くなるのではなく全ての人を想わなくてはいけない。
拾われた恩もあり、司祭様には逆らう事など考えていなかった。
私にはそんなもの必要ないから全然苦には思わなかった。
私には欲しいものなんて何もなく、きっとこれから先も変わらないと思っていた。
特定の友人は作らず、二人きりで遊ぶ事はなく誰にでも平等に接していた。
喧嘩の仲裁も上手くなった、誰か味方をする事はないからいつの間にかお互いが仲直りしていた。
どちらが悪いか、決着がつかないからバカらしく思ってくれたのかもしれない。
私は誰かを感情的になり怒ったり、説教なんてしない。
そうしなくてはいけないと、子供心に思っていた。
そんな私が誰かを庇って、今まで誰も入れなかった部屋に招くとは思わなかった。
あの時の私は確かに感情的になり、声を張り上げていた。
私が今まで平等に接していた事を全て否定されたようだった。
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