episode.3

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「どんな……と言われても……普通に説明したつもりだが……」 「普通にって……?」 「俺と汐海は顔見知りで、偶然就職先が同じで同期になり、俺の方が汐海を気に入っていたから交際を申し込んだ。職場では恋愛を持ち込みたくないと話し合って決めたから内緒にしていたが、そろそろ結婚をという話が出ているので話す事に決めた……と。汐海が気にしていたのは女子社員たちの反応だって事は分かっていたから、角が立たないよう俺なりに交際理由は配慮したつもりだったんだが……問題あっただろうか?」 「…………いや、うん……。配慮してくれた事は有難いけど……話したなら話したって一言言って欲しかったかな? 事前に話を合わせておかないと矛盾が出るからさ……」 「言われてみれば、そうだな。悪かった……」 「ううん、もういいよ。でも、よくそんな内容を思いついたね? 私だったら全然思いつかなかったよ」 「しかし、俺は課長と部長にしか話していないんだが、汐海は誰からその話を聞いたんだ?」 「……あのね、この会社には歩くスピーカーみたいな人が沢山いるのよ。特に、楓に興味のある女子社員たちはみんな常にアンテナ張ってるの。部長や課長から聞き出す事も容易いわよ、彼女たちならね」 「そうなのか……知らなかった……」  なんて言うか、楓って意外と天然なのかなと話すようになって気付く。  まあ、話は分かったし、彼の配慮のお陰で私は女子社員たちから恨まれずに済んだから良かったけれど、会社では暫くこの話題で持ち切りだろうなと思うと頭痛がする。 「それで……両親にもきちんと話をしようと思うんだが、実玖はいつ頃が都合良いだろう? 俺の親に話すよりも先に実玖の実家に行った方がいいだろうか?」 「あ、そうだよね。私はいつでも大丈夫だよ。楓のお父さんは会社の社長だし、社内で噂が広まると社長の耳にも入るだろうから……先に楓のご両親に話をした方がいいんじゃない?」 「そうだな……それじゃあ急だが、今週末でどうだろう?」 「分かった。今週末ね! それじゃ、詳しい事はまた後でって事で!」 「ああ」  始業時間を報せるチャイムが鳴った事で、私たちは仕事に戻る為に話を終わりにして応接室を後にしたのだけど、いざ自分のデスクに座ってひと息吐いた時、改めて楓との話を思い返してみると、今週末に楓のご両親に会うって事は要は結婚の挨拶な訳で、服装はどうしよう? 髪型は? そもそも、本当に私で大丈夫なのか? なんて不安や心配が押し寄せてきて、とてもじゃないけど仕事どころでは無かった。
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