episode.3

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 そして日曜日、急遽決まった楓の両親との顔合わせ。お父さんの方は会社の社長でもあるから勿論顔は知っているし挨拶を交わした事もあるけれど、向こうはいちいち一社員の事なんて認識もしていないだろうから、初めてとあまり変わりは無い。  高級老舗料亭での顔合わせという事で、普段絶対に行く事の無い場所で結婚相手となる人の親との顔合わせというシチュエーションには、とにかく『緊張』の一言しか無い。  楓のご両親よりも先に着いて案内された個室で待っていた私は、隣に座る楓に問い掛ける。 「ね、ねえ……服装とか髪型、大丈夫……かな?」  料亭での食事とあって初めは着物にするべきか悩みに悩んだ末、普段着慣れない着物を着て粗相があっても困るし、それなりに動きやすい方が何をするにも支障が無いと、露出の少ない落ち着いた印象を与えるスモーキーピンク色のワンピースを選び、髪型は派手になり過ぎないよう、緩くフワリと巻いただけのヘアスタイル。 「問題無い。何だか普段よりも大人っぽい印象に見えるし、実玖ならばうちの両親も気に入ると思うから気負う必要は無い」  服装や髪型が変では無いかと質問するも楓は『大丈夫』としか答えず、何を根拠に言っているのか分からないけれど、両親は気に入るの一点張りだった。 (本当に大丈夫かな? 不安だわ……)  しかしまあ、ここまで来てしまったのだから、気に入られるよう頑張るしか無いと心の中で喝を入れていた時、「失礼致します。お連れ様がお見えになられました」と言いながら仲居さんが襖を開けると、その後ろに楓のご両親が控えていた。 「悪かったな、遅くなってしまって」 「本当に、ごめんなさいね」  少し遅れるという旨の連絡が楓の方にいっていたものの、二人はとても申し訳なさそうな表情を浮かべている。 「気にしなくていいよ。とりあえず二人とも、座ってよ」  楓は特に気にする様子も無くご両親に向かい側に座るよう促したので、私は軽く会釈をしただけでひとまず何も発言しないでおいた。
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