㉕ 永遠の色

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「次の作品です。こちらは三年前に行われた展覧会で、最優秀賞に選ばれた作品です。王立美術館展示作品の中でも、一番人気がある作品で、皆さんも目当てで来られた方は多いのではないですか?」  カツカツと館内に靴音を響かせて、美術館職員の女性が手を挙げると、一つの作品の前で止まった。  彼女の掛け声に、人々は集まって、誰もが食い入るように壁にかけられた一つの絵を見つめた。 「あのーロラン氏の作品は、ここでしか見られないというのは本当ですか?」 「はい。現在、ロラン氏の作品は、初期のものから全て、ホルヴェイン財団が管理しており、一般には公開されていません。この故郷という作品も、王宮に所蔵されていて、この時期だけ借りて特別に展示しています。ロラン氏は赤のシリーズと呼ばれるもを、他に二作品描かれていますが、どちらも幻と呼ばれていて、数少ない人しか目にしたことがありません」  職員の説明に、おぉと言う声が上がって、パラパラと拍手の音まで聞こえてきた。 「郷愁を誘う光景、静けさと激しさの色使い、目に焼きついて忘れられない、まさに故郷……、本当に美しい……何もかもが美しくて……胸が切なくなります」 「本当、絶対見たいと思って、待った甲斐があったわ。素晴らしい……これは忘れられない」 「この赤色は素晴らしい……、まるで生きている色ですね」 「こちらはロランレッドと呼ばれていて、製法は一切明かされていません。ロラン氏だけが使う、特別な色として有名です」  まるで血の色のよう、まさか、と言った声が上がるのを、ロランは離れたところで聞いていた。  団体の観客がなかなか離れていかないので、次々と人が並んでしまうのは、お馴染みの光景らしい。 「大人気でしょう。今回の展示に許可をいただけて本当に良かったです。何度もしつこくお呼びして申し訳ございませんでした」 「いえ、そんな……。館長さんから、何度も招待いただいて、毎回お断りしてしまい、こちらの方が申し訳ないくらいです」  ロランが頭を下げると、王立美術館館長は、白い髭を撫でながら、お会いできて良かったと言って笑った。 「ロランさんは、ガッシュ工房の出身でしたね。それにしても、ガッシュ氏があんなことになるとは……初期の頃は、いい作品を描いていたのに、残念だ」 「ええ、そうですね」
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