㉕ 永遠の色

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「三年前の公募展でロランさんの名前を聞いた時は、まさかと思っていました。騒動の時、私は、ガッシュ氏が訴えていたことがどうも納得できなかったのです。彼の作風とは全然違いましたから。私は一職員でしたから、お力になれなかった。ロランさんが公募展で最優秀賞となった時、やはりあれは全てロランさんの作品だったと、大勢が納得したのです」  館長が熱く語り出した横で、ロランは冷めた目をしていた。  三年前、ロランは故郷を公募展に出展して、最優秀賞賞に選ばれた。  そのことにより、ロランに再び注目が集まり、過去のガッシュとの確執にも焦点が当てられた。  当時、ガッシュの主張をおかしいと思っていた人々が声を上げた。  工房を辞めた者達の中から、あれはロランが描いていたと証言する者が出てきて、ロランの他にも、ガッシュが弟子の作品を盗んでいたという証言がどんどん出てきた。  明らかに違う作風が論議を呼び、ガッシュ自身はもう何年も自分の作品を作っておらず、非難が集中してから、やっと発表した作品は酷いものだった。  結局、ガッシュはすでに才能が枯渇していたとされて、一気に風はロランの背中を押した。  美術界から背を向けられて、美少年好きの汚れた画家という汚名がついてしまった。  追い詰められたガッシュは、自分のアトリエで首を吊って自殺した。  ロランの因縁の相手であるミリアムは、自信があった公募展の一次審査で落ちてしまった。  絶対優秀賞だと威張っていたので、笑いものになってしまい挫折。  審査員に金を送っていたことがバレて、美術界から追放。  田舎に帰ったと言われているが、その後の消息は不明だ。  ダーレンが言っていた通り、ロランを傷つけた者は、壊れて消えてしまった。       「どうですか? あれだけの人気なのですから、ぜひサイン会でも……」 「いや……それは……、表に出るのは苦手なので。でもこうやって、みなさんの反応が見られて良かったです」 「ぜひ、今後とも良いお付き合いを。私としては、赤のシリーズを当館に寄贈していただけたら、館長として一番の功績となりますので」 「そう言っていただけるだけで、大変ありがたいです。こちらこそ、よろしくお願いします」  上手く言って逃れたロランは、館長と握手をして、にっこりと笑った。
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