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息を呑んだ館長が、ぼんやりとした目でロランを見ていた時、失礼と声が聞こえて、間に人が割り込んできた。
「無礼をお許しください。次の予定が詰まっておりまして、我々はこれで失礼します」
「おっと、ホルヴェイン公爵。お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「ヴェルデ館長、次回また、ゆっくりご挨拶させていただきます」
館長に向かって、美しく微笑んだのは、ダーレンだった。
二人の間に入って、すぐにロランの手を取った後、颯爽と手を繋いだまま歩いて行ってしまった。
その様子を見ながら微笑んでいたら、館長と声がかかって、後ろから部下がやってきた。
「あれがホルヴェイン公爵と、画家のロランさんですか?」
「ああ、噂通り、鉄壁のガードだ。いつも近くにいて、ロラン氏に触れると、飛び出してくる」
「気持ちは分かります。ロランさん、すごく綺麗な方でしたから、心配なんですよ。特にあの目、神秘的で忘れられない……あの故郷の絵の中で佇んでいる姿がよく似合う、まるで天使のような……」
頬を赤くして、惚気た顔をしている部下を見て、館長はゴホンと咳払いをして、しっかりしろと声をかけた。
「あの二人は普通の人間じゃない。バカなことは考えるな、考えるだけで、恐ろしいことになるぞ」
部下は大げさですよと言って笑っていたが、館長は、間に入ってきた公爵の恐ろしい目を思い出して、ブルッと震えた。
勘の良さだけで、館長にまで上り詰めた男からすると、あれは関わってはいけない相手だと本能が危険を察知した。
「仕事に戻れ、午後から忙しくなるぞ」
そう言って、部下と二人、急いで現実に戻ることにした。
「ほら、ゆっくり息をして……」
「はぁ……はぁ……うぅ……」
「限界だったんだろう? 見ていてどうなるかと思ったよ」
ガシャンと馬車のドアが閉まったら、ロランはダーレンの胸に倒れ込んだ。
なるべく遠くから見るようにしていたが、目に入ってしまったら、匂いまでしてきて、途中から気絶してしまいそうだった。
赤のシリーズと呼ばれている、ダーレンの血を絵の具と混ぜて塗られた絵は、ロランにとって甘い毒だ。
人魚の血がもたらす、ダーレンの半身としての効果は凄まじい。
目にして匂いを嗅げば、たちまち体が反応して、発情してしまう。
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