② 悪魔の囁き

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「そういう家系なんだ。体は成長するが、精神的な成長が遅い子がたまに生まれる。専門家じゃないから年齢とかは分からん。それなりに会話はできるが、中身は子供と言っていい。過去の例から見ると、死ぬまでそのままだった場合と、後から急に成長する場合があるらしい」  バロックが何を言っているのか、理解が追いつかなくて、ロランはパクパクと口だけを動かしたが、言葉が出てこなかった。  やはり奇妙な夢かもしれないとまた思ってしまった。 「多少気難しいところはあるが、子供だから、仲良くなれば言いくるめられるだろう。何しろ、友人もいないと聞くから、遊び相手に飢えているはずだ。友人のように仲良くなり、行為を嫌がったら友達をやめると言って脅すんだ」 「…………最低だ」 「元ガッシュの工房にいた経歴があって、ソッチの経験も豊富だろ? 五年も一番弟子だったわけだから。それでいて、金に困っている男、これはお前にしかできない仕事だ。最悪、逆になってもいい、とにかく男を覚えさせるんだ。種を残せないように」 「ふざけんな! そんなに気に入らないやつなら、刺客でも送って始末してもらえよ。その方が確実で安くすむはずだ。俺はそんなことはやりたくない!」  そう言ってロランはバロックを睨みつけて、立ち上がった。  貴族の争いなんかに巻き込まれるのはごめんだった。  自分達で解決してくれと、鼻息を荒くして叫んだら、次の瞬間、ガタンと椅子が転がる音とともに、大きな手が伸びて来て、ガッと喉元を掴まれた。 「ゔ……ぐゔゔっ……」 「画家先生よぉ、アンタ選べる立場じゃないんだわ。この話を知ってしまったんだ。断っても、どの道命はない。このまま、グロニの所へ連れて行ってやってもいいんだぜ」  嵌められたと思った時は遅かった。  おそらく家に入って来た時から、こうするつもりだったのだろう。この男の方が一枚も二枚も上手だ。  しかもロランはほとんど食べていないので、押し返して逃げれるような力がない。 「この……外道……、悪魔め……」 「何とでも言ってくれ。俺も仕事なんだ。上手くやれば金がガッポリ入ってくるんだ。そこまで悪い話じゃないだろう。ゲロ臭い廃人を助けてやろうっていうんだ。感謝してほしいくらいだぜ」  それじゃあ本格的に説明に入ろうと言って、バロックは歯を見せてニヤリと笑った。
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