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「できればでいいんだけど、再婚相手に会う前に、何か仕事を見つけてほしいな。娘が失業中じゃ、格好つかないでしょう」
母親はグサッと胸に突き刺さる言葉を投げかけた。
だから、琴子の中に、なるべく早く仕事を見つけたいという思いがあることは否定できない。
その天職がまさに、向こうからやって来た。人事課の佐伯美奈子さんの印象はとてもよかった。おそらく、泣くことに関しては、琴子の右に出るものはいないだろう。
琴子は自然とスマホに手を伸ばしていた。
面接当日。
会社は渋谷区の道玄坂の一角にあった。
ビルの3階のワンフロアの事務所で、社長を含めて社員数は十人程度の小規模な会社だった。
面接をする前に、琴子は事前にホームページで会社の情報は得ていた。
業務内容は披露宴や葬儀の参加者の派遣や、謝罪会見の際の派遣などだ。
給与は固定給プラス出来高払いとなっていた。
社名の由来もフランス語とはかなりおしゃれなものだった。場所も渋谷区ということで、実家から十分に通える。
会社を都合退職して一か月しか経っていないが、いつまでも実家でニート生活という訳にはいかない。
面接室には琴子一人だけだった。
面接室は佐伯美奈子さんと社長が並んで座っていた。琴子と目が合うと、佐伯さんは微笑んだ。
社長はひげを蓄えた紳士然とした初老の男性だった。
質疑は佐伯さんが主にした。琴子はそれについて、澱みなく答えた。
佐伯さんはにこにこ笑っていた。琴子は面接に手応えを感じていた。
ざっと十数分の面接時間が終わった。その後、今まで面接を傍観していた社長が切り出した。
「では、わたしから。今までで一番、悲しかったことを教えてください」
琴子は固まった。悲しかったこと...。お父さんが亡くなったこと?和樹にフラれたこと?当たり障りのない答えを言った方がいいのかもしれない。だが、社長自らが訊いてくるからには、何か意図があるはずだ。
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