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食事の最中、早川さんは琴子に仕事は何をしているのかと訊ねた。琴子はナプキンで唇を拭うと、愛想笑いを浮かべた。
「はい。先日、人材派遣会社に転職しました」
「へえ。派遣会社ですか。昨今は就職事情が大変でしょう?」
「ええ。ハローワークに何度足を運んだことか、わかりません」
「この娘、とても頑張り屋さんだから」すかさず母親がフォローを入れる。こういうところでの点数稼ぎには余念がない。
「もし、気が変わったらでもいいんだけど、そこの会社が合わなかったら、うちの方でも、琴子さんのポストを用意するよ」
早川さんはここでも、照れ臭そうに笑った。
「今日はカメラテストをします」
佐伯さんは初出社した琴子にそう言った。
「カメラテストですか?」
「はい。実際にカメラの前で泣いてもらいます。不自然な点があれば、改めてもらいます。そんなに緊張なさらないでもいいですよ。これは形式的なものです。あまりカメラを意識なさらずにお願いします」
佐伯さんは三脚のビデオカメラを運んできた。
「あのう、もし不自然に写っていた場合、仕事は他に回されるんでしょうか?」
「ええ。そうですね。マスコミが取り上げるような大々的な記者会見のような仕事は回せませんね。とにかく、うそ泣きだと世間にバレてしまっては元も子もありませんので」
佐伯さんは淡々と、カメラの設置をした。
「あのう、もう一つ、いいですか?」
「はい」
「たとえばですよ。マスコミに注目されるような記者会見でうそ泣きが発覚した場合、解雇されたりしますか?」
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