① うそ泣き、バレた

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 先生は逆に、琴子の泣きが乗り移ったかのように泣きそうな表情になった。  現在の琴子を作り上げたのは、泣きだ。それも本心からの涙ではない。スクリーンの女優が役に入りきって泣く。そういう感じだ。  先生も薄々、琴子がうそ泣きをしていたことを知っていた。だが、あまりにも真に迫っているので、余計なことは言わないようにしていた。  大人をも巻き込み、翻弄する琴子は、小学校を卒業する頃には、うそ泣きの女王という異名をつけられた。  そして、その噂は中学校にまで波及し、中学入学と同時に、演劇部にスカウトされた。すぐに泣ける技術を持っていることは、琴子にとっては、ストロングポイントになった。  琴子は演劇部でも、その見事な泣きっぷりに周囲を驚かせた。 「きっと、真中さんは大女優になれるわよ」  部長は太鼓判を押した。  だが、琴子は演じることに興味はなかった。ただ、演劇部に在籍しておけば、内申書にプラスになると思っただけだ。うちの母親は教育ママなので、県内の進学高校に進むことを期待していた。琴子もそれが、親孝行と思っていた。  中学校に入ると、異性を意識しだす。  琴子も小学生の頃には、少女漫画に夢中になっていた。いつか、こんな素敵な恋をしてみたいと思ったりもした。  密かに想いを寄せている男子生徒がいた。ただ、恋に奥手な琴子はなかなか、告白ができないでいた。  すると、意中の彼が琴子に告白をしてきたのだ。彼は琴子が舞台で泣くシーンを見て、雷に打たれたような衝撃を受けたという。  実際、彼は俳優養成所に通っていたが、泣くシーンではなかなか涙を流せないことに、忸怩たる思いをしていたらしい。だから、彼は琴子にすぐに泣けるコツを教えてほしいと言った。
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