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⑤ 記者会見と元カレ
一週間はあっという間に過ぎた。
琴子は記者会見の数時間前に、今回の依頼者である江東区役所の職員たちに挨拶に回った。
琴子は職員を示すバッジを胸元につけた。
服装はグレーのスーツ。化粧は控えめ。都市開発課の課長よりも目立たないような地味さを纏った。
想定問答のマニュアルも完璧だった。あとは自然と泣ければ問題はなかった。
「本日はよろしくお願いしますね」
都市開発課の課長が平身低頭して、琴子に近づいた。
課長は汗っかきなのか、これから始まる記者会見に緊張しているのか、額に浮かぶ汗をしきりにハンカチで拭きながら、にっこりと微笑んだ。
琴子はリラックスするために、深呼吸をした。
元同僚のカコちゃんには、ふつうに人材派遣会社に入ったことを報せた。じゃあ、今度、互いに転職祝いをしようかと話が盛り上がりかけた時、琴子はしばらくバタバタするかもしれないから、多分先になると思うと言って、話を中断した。
もう一件、メールが届いていたが、琴子は無視した。
「本日はお忙しいところ、お集まりいただき、ありがとうございます。江東区児童公園での、ブランコの事故につきまして、会見を行いたいと思います」
課長は汗をしきりに拭きながら、声を発した。
琴子はマスコミから向かって左側の隅の椅子に項垂れて座っていた。
多目的広場には大勢のマスコミが詰めかけていた。会見が始まる前から、フラッシュを焚くカメラが数台あった。
この会見の注目度がわかる。飲み込まれてはダメだと、琴子は気合を入れ直す。
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