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琴子はそれをきっかけに、彼と恋仲になった。もちろん、真剣に俳優になることを考えていた彼のために、泣くアドバイスをしたが、それは天賦の才というもので、彼にはあてはまるものではなかった。
デート中、ディカプリオ主演の「タイタニック」を鑑賞した際、彼はボロボロと涙を流したが、琴子は泣けなかった。琴子はいわゆる、感動、お涙頂戴系の映画で泣いた経験がない。
「真中さんは感動しなかったの?」
「わたし、ああいう映画は感動しないんだよねえ」
「じゃあ、涙は一滴も出なかったの?」
「そうね」
「じゃあ、真中さんは、どういう時に泣くの?」
「うーん。困った時かな」
琴子の恋は一か月で終った。
結局、琴子は肝心な時に涙が出ないのだ。たとえば、感動的な映画を観た後だとか、飼っていたペットが死んだ時だとか...。
琴子は彼と別れる時にはっきりと言った。
「わたしの涙はうそで生成されているの」
「うそ?どういうこと?」
「わたしは本気で泣いたことがないの。つまりうそ泣き。だから、わたしの涙は無味乾燥なの」
彼は怪訝そうな顔をした。無理もない。うそ泣きをする人を好きになったことが、しっくり来ないのだろう。
そして、和樹に告白する前に、うそ泣きがバレていた。大概の男は騙せると考えたことが甘かった。
和樹は一言、楽しかったと言った後、こんな捨て台詞を残した。
「うそ泣きができるってことは、うそ笑いもできるってことだよね。琴子の本当がわからない」と。
琴子も時々、わからなくなる。本当の自分てあるのかと。
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