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ショックを引きずりながら、琴子はあてもなく、街を彷徨い歩いた。
交差点の横断歩道の前のビルに設置されている大型ビジョンに、大物芸能人カップルの離婚会見が映し出されていた。
一世を風靡した美男美女カップル。世間は世紀のビッグカップル誕生と沸き立っていたことは記憶に新しい。
そのカップルがすれ違いを理由に破局を迎え、離婚会見を開いた。結婚会見も派手にやったが、離婚会見もそれに負けず劣らず、派手だった。
かつて、幸せいっぱいだった笑顔がうそのように悲しい泣き顔を晒した女優は、ハンカチ片手に思いの丈を記者たちにぶつけている。
「わたしは今でも、彼を愛しています。これは紛れもない事実です。どうか、彼を責めないでください」
惚れ惚れする名演技だ。さすが天下の女優だけあって、記者会見でも堂に入っている。それだけの度胸がなければ、海千山千の芸能界など渡れない。
きっとみんな、騙されている。うその涙に。かくいうわたしも他人のことは言えない。住む世界が違っても、やっていることは同じだ。
信号が青になり、琴子は先ほどの別れ話がなかったかのように、颯爽と歩いた。
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