②うそ泣きが仕事に?

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②うそ泣きが仕事に?

 和樹と別れてから、琴子はますます、仕事にのめり込んだ。  琴子は化粧品会社の広報部に籍を置いていた。仕事内容は主にホームページの作成、新商品のPR、インフルエンサーの手配、モニター調査の実施やら、多岐にわたっていた。  たまにクレーム対応もこなさなければならないので、残業をすることも珍しくはない。  少ないフリーの時間を和樹とのデートに充てていた頃が懐かしい。でも、もう彼はわたしの前からいなくなった。互いに深手を負う前に別れたことは、正解だったのかもしれない。 「ねえ、うちの会社、ヤバいらしいよ」  同僚の加奈子、通称カコちゃんが琴子がコピー機の前にいるのを見計らって、話しかけてきた。 「え?ヤバいって?」 「海外の会社に身売りする可能性があるってこと。これってもしかしたら、上司が外国人になるかも...」  いわゆる黒船だ。時代の趨勢か、最近、外資が日本の会社を傘下に収めている。 「ねえ、わたし、英語できない。どうしよう?」  カコちゃんは悲痛な表情をする。 「わたしだって、似たようなものだけどね」  カレシとの別れの後、会社の身売り話が浮上し、確実にわたしの立っている屋台骨がぐらつき始めていた。確か、街角の易者に手相を見てもらった際に、凶と出たことを思い出した。  やはり、あの易者は本物だった。たかが手相と侮ることなかれ。別れ話からの会社の身売りの、絵に描いたような転落が待っていた。  翌日、アメリカの化粧品会社の傘下に入ることが決定した。上層部は水面下で外資に身売りすることを一年前から決めていたそうだ。  そして、身売りをするということは、激しい人員整理も付録のようにつく。会社は早速、希望退職者を募った。勤続年数に応じた退職金が支払われることになった。会社側のせめてもの誠意であった。
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