4人が本棚に入れています
本棚に追加
「深山果穂、泣きの女優として有名なんだから」
朝ドラでブレイクし、その後、火がついたようにドラマや映画に引っ張りだこ。特に泣きの演技はまさに職人技で、おそらく、泣きの大会があったら、優勝しているだろう。
「深山果穂、なんか、記者会見見てたら、琴子に似てるなあってなんて思えて」
「なに、それ?褒めてるの?それとも貶しているの?」
「褒めてるに決まってるでしょう」
母親は相変わらず、あっけらかんとしていた。
琴子はハローワークに足を運び、失業保険の手続きをした。その後、適当に求人広告に目を通した。三十という年齢は、再就職するにはハードルが高かった。
まだ、三十、もう、三十。どっちに転んでも選択を迫られる年ごろだ。
天気が好かった。カコちゃんからスマホにラインが来ていた。カコちゃんはどうやら、明日から友人の会社で働くらしい。今までと勝手が違うので、苦労しそうだとぼやいていた。贅沢な話だ。仕事があるだけマシだ。今のわたしは本当に空っぽだ。
人を羨ましがってはダメだ。もう、三十のいい大人が子供じみた気持ちを抱いてはいけない。
横断歩道の前に立つ。目の錯覚だろうか?向こう側に和樹が立っていた。そして、隣には見知らぬ女性が。別れてまだ、一週間しか経っていないのに、もう恋人を作っているなんて。確かに和樹はイケメンで仕事ができて、琴子にはもったいないくらいの男だ。ただ、琴子はそれだけで和樹を好きになったわけではない。優しくて情に厚い面もあったからこそ、結婚まで考えたのだ。
今回の別れは琴子の不徳の致すところだ。だけど、立ち直り、早くないか?
最初のコメントを投稿しよう!