②うそ泣きが仕事に?

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 琴子はハローワークに通いだした。  今までの条件というわけにはいかなかった。  三十過ぎで、これといった資格もない琴子を優遇してくれそうな会社など、ない。もし、琴子と大学卒業したばかりの新卒で、同じくらいのレベルでも、人事課は迷いなく、新卒を採用するだろう。  琴子は前の会社を去る前から覚悟はしていたが、いざ、その身になってみて、無理をしてでも残留するべきだったかと後悔した。  だが、もう後戻りはできない。  とにかく、失業保険が切れる前に条件を下げてでも、新たな就職先を見つけなければならない。 「条件をかなり下げなければいけませんね」 「片道二時間の小さな会社なら紹介できます」  ハローワークの回答は、琴子の心を削ぐものだった。  やはり、考えが甘かった。  ハローワークを出ようとした時、後ろから声をかけられた。振り返ると、黒い上下のスーツを着た女性が立っていた。 「お仕事、お探しですよね?」  琴子が戸惑っていると、女性は一歩前に寄り、名刺を差し出した。 「株式会社 ラルム 人事課 佐伯美奈子」  琴子はしげしげと名刺を眺めた。 「あのう、どういった会社でしょうか?」 「あ、大変失礼しました。当社は人材派遣会社です」 「派遣...ですか...」 「はい。あの、少しお話したいので、どこか落ち着く場所に移動しませんか?」  琴子と佐伯美奈子はハローワーク近くの喫茶店に落ち着いた。 「あの、具体的にどのような会社に派遣されるのでしょうか?」 「会社もそうですが、個人依頼主が多いですね。そして、当社は泣くことができる人材を求めています」  思わず、琴子は美奈子の顔を見返した。 「泣く、こと?」 「はい。すぐに泣ける人材が当社では即戦力になります」
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