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緑豊かな動物保護区の中、カリナは深く息を吸い込んだ。彼女の周りは、野生の鳥のさえずりと木々のさざめきで満たされていた。しかし、この平和な風景はすぐに乱されることになる。
カリナの眼光が鋭くなる。手に持った双眼鏡を下ろし、彼女はパークの一角で何かをする女性に向かって歩き出した。
「あなた、いま、餌やりをしようとしましたね。」
彼女の声は冷たく、断定的だった。
女性は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにやり場のない笑みを浮かべた。「これは私のおやつよ。」
「飲食物の持ち込みは禁止されています。」
カリナは訴えかけるように言った。
「そりゃ悪かったわよ。でも、こんな大自然の中じゃお腹がすくわよ。ちょっとぐらい...」
「ダメです。通報しますね。」
カリナがスマートフォンを取り出そうとすると、女性は慌てて彼女に飛び掛かった。ドタバタという乱闘の音が公園内に響き渡る。
その時、パークレンジャーが駆けつけた。「カリナ、逮捕状が出ています。」
「は?」
カリナの声には信じられないというニュアンスが混じっていた。
「殺人の容疑です。貴方は以前に密猟者を撃ちました。」
「何かの間違いよ!」彼女はパニックに陥り、反射的に暴れ始めた。パークレンジャーを押しのけ、カリナは一目散に空港へと走り出した。
カリナは端末の連絡先リストを繰り、助っ人を探す。ずいぶん昔に「困ったときは連絡をくれ」と言っていた人がいた。まだ密猟者狩りをしていたころ、危うく返り討ちされそうになったところをカリナが助けたのだ。その貸しを返してもらうときが来た。「もしもし!」「ひさしぶりですね。どうしました」「今すぐ助けて」「ちょうどパークの近くに来てたんです。ピックアップします」。カリナの目前、開けた草地にシャトルがひらりと着地した。
シャトルのドアが開くと、運転席にはカリナがかつて命を救った人物の姿があった。彼女は飛び乗り、操縦士と共に離陸の準備を始めた。しかし、その瞬間、シャトルの窓を叩く音がした。パークレンジャーだ。彼はカリナを真っ直ぐに見つめ、厳しい表情で一言、「カリナ、これ以上逃げても無駄だ。降りてきて、話をしよう。」
カリナは操縦士を見た。彼は首を横に振り、「行くぞ」とだけ言った。シャトルのエンジンが唸りを上げる。彼女は後ろを振り返ると、そこにはパークレンジャーが手を広げて立っている姿が見えた。だが、彼女に選択の余地はなかった。シャトルは地面を蹴り、空に向かって急上昇した。草地にはパークレンジャーの孤独な姿と、空に消えゆくシャトルの残像が残るだけだった。
カリナは息を呑んだ。惑星ルルへの逃亡は、もう戻ることのできない一線を越えてしまっていた。
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