結局その日、彼は待ち合わせ場所に来てくれなかった。

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「俺はカラオケ帰り。たまたまここ通ったらお前がブランコ乗ってるの見えたから。で?こんな時間にこんなとこで何してんの?」 「なんだっていいでしょ、もう、どっか行って」 こっちの気も知らないで、陽気で呑気で今の私の心とは真逆すぎるテンションの彼が気に食わずシッシッ、と手を払った。 「もう遅いから帰ろうぜ?」 「帰らない」 「何時だと思ってんだよ」 「10時」 「半だ」 「細かい」 「ほら。そこの自販でなんか奢ってやるから」 頑なにここから腰をあげない私に彼はまるで子供を家に連れ帰る時みたいな提案をしてきた。 ヤンキーの癖に女を早く家に帰らせようとするなんて見掛けに反して変な奴だ。 「じゃあコーンスープ」 「奢られるんかい」 「奢るって言ったじゃん」 「ちゃっかりしてんな」 その日は1本のコーンスープと引き換えに家に帰った。しかし飲み干したコーンスープの空き缶がなかなか捨てらなかった自分に気づき、恋を自覚したのは言うまでもない。 若干傷付いている時に優しくされたから、っていうのもあったかもしれない。
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