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声を押し殺して泣いているようだった。
私は足を止めて彼女の姿を呆然と見つめる。
ポツリ、と誰にも届かない声を発した。
「楓…」
楓は色とりどりの花束が沢山手向けられた道沿いで手を合わせて泣いていた。
「さくらちゃん…っ、うっ…っ」
私の名前を呼んで、泣いている。その瞬間。私の脳裏にはある記憶がやってきた。
忘れていたとてつもなく大きくて残酷な記憶だ───────。
***
あの時…
「ごめん、急いでるから」
昇降口で楓の手を振りほどいた私は全速力で家まで走った。弾む息も、頬を伝う雨粒も無視して。
そして近所の横断歩道を渡った時だ。
ピー!ってけたたましいクラクションの音が鼓膜を突き破るほど辺りに響き渡った。
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