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「其処で何をしている」
「!!」
いきなり声を掛けられ飛び上がる程に驚いた。慌てて視線を這わすと其処には寺島先生が立っていた。
そして私が手にしていた白衣を見て「……それ、俺の」と短く呟いた。
(えぇっ! これ、寺島先生の白衣だったの?!)
益々恥ずかしさが増大して私は固まるしかなかった。
「……田畑さん? 顔、赤いよ。それに汗が出ている。具合が悪いのか?」
「ち、ちが、違います!」
なんとかそれだけを吐き出して白衣をソファに掛け、岡持ちを手に慌てて部屋を出て行った。
「──なのか」
すれ違い様、寺島先生が何かを呟いたようだったけれど私の耳には正確な言葉は入ってこなかった。
(あぁぁぁー、よりにもよって寺島先生に見られたなんてぇぇー!!)
恥ずかし過ぎてどうにかなりそうだ。よくよく考えれば、この時初めて私と寺島先生は言葉を交わした。
(初めて交わした会話がこんなだなんて~~~)
その日を境に私は激しい自己嫌悪と焦燥感に襲われ、悶えることになったのだった。
あの悪夢のような日から私は病院への出前を頑なに拒んだ。──だけど
「おい美和! 出前行ってくれ。今日はアルバイトの河野くん休みなんだからよー」
「えぇぇ──」
夜の営業時間、珍しくお客さんで混んでいた中、病院への出前を頼まれた。精いっぱい抵抗したけれど、結局父にせっつかれ渋々出前に行くことになってしまった。
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