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わたしが着ているダウンジャケットの下には、部屋を出るとき、迷うくらいなら持っていこうと、首から下げてきた『しゃれこうべ』が、あるにはある。
久遠様の話によれば――
呪い唱を詠いながら打ち付ければ、かなりの攻撃力があるらしいけれど……
扱い慣れたら、岩盤くらいは簡単に打ち砕くことができると云っていたけれど……
正直云って、その『呪い唱を詠う』という呪術的な行為が、わたしはイマイチどころか、まったくわかっていない。
タタリの首を絞めたときも、神楽に馬乗りになったときも、どちらも無意識から出たもので、何がどうなってそうなったのか……じつはサッパリだ。
そんなわたしが、付け焼刃にもなっていない『しゃれこうべ』で、平安時代のバリバリエリート術師が張った強力結界に対抗できるはずもなく。忍びでもないから現場の救助活動に加勢できるワケもなく。
迷惑をかけないためにも、わたしに残された道は、これしかなかった。
大人しくここで待つべし。
自分ができることをすべし。
トラックの荷台から数枚の毛布をおろしたあと。わたしは忍ノ子らでギュウギュウ詰めになった助手席のドアをバタン――ッと閉めて、梶取に命じる。
「このまま『首斬り山』にいきなさい。この子たちを山頂のプレハブに避難させて、荷物をおろしてから、梶取はもう一度ここに戻ってきて」
「わかりました! お嬢様、どうぞお気をつけください」
「急がなくていいから、安全運転でお願いね」
雪道を発進したトラックを見送り、風太と雷太にも命じる。
「二忍は里に向かって、わたしはここに残るわ。怪我忍や幼い子を見つけたら、ここに運んでくるように、御所忍衆にも伝えてちょうだい。梶取とピストン輸送するから」
当然ながら二忍は、ひとりで残るというわたしに猛反発した。
「そんなことをしたら、俺たちボコられます」
「ボコられるだけならいいですけど、俺たちきっと、そのあと殺られます」
だれにボコられ、だれに殺られるのか。
それについては、わざわざ訊かなくてもわかってしまった。
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