涙くん、、、、、

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涙くん、、、、、

 動画を撮って、各々と話をつけ終わると、僕は愛妃に言う。  「ありがとう」  「良いんだよ。私は、泰史(やすし)の事好きだから、なんとかしてあげたかった」  僕は驚いた。  「僕を好き……、僕を好きな人なんているの?」  「私だよ。泰史(やすし)が、好きなんだ」  愛妃の顔が真っ赤になった。  愛妃が再び言う。  「大好きなんだ」  愛妃が僕の腕を掴んだ。  愛妃は、少しはにかんで、うつむいた。  「好きな人が苦しんでいるのを、ただ見ているなんて出来なかった」  僕は愛妃の俯いた顔を覗き込んだ。  愛妃の頬が濡れている。  僕は切なくなる。  「僕の為に泣いてくれるの?」  僕らの隣にいた涙くんが言う。  「僕が泣かなくても、泰史(やすし)の為にないてくれる人が出来たね」  僕が涙くんを見る。  涙くんが僕に言う。  「僕は、もう、必要ないね」  僕は涙くんを見た。  「そんな。僕は、涙くんがいたから、今まで頑張って来られたんだ」  「知っているよ、でもね」  涙くんが寂しげに言う。  「僕の役目は終わったみたい」    涙くんが、僕と愛妃を包むように抱きしめた。  「泰史(やすし)の涙は、泰史(やすし)のものなんだよ」  そう言うと涙くんが、僕の身体に染み込んで行くように、消えて行く。   「泰史(やすし)は、自分で泣かなきゃね」  僕は切なかった。  「涙くん……」  涙くんが言う。  「さよなら」  「ああ、涙くん……」  僕の瞳に、涙があるれ出た。  それに愛妃が気が付き言う。  「泣いているの?」  僕が言う。  「泣いてはいけないと思ってきたんだ」  ママの顔を思い出す。  ママは、僕の笑い顔だけを見たいんだ。  「僕は笑顔じゃなきゃいけないんだ」  愛妃が言う。  「そうなんだ。でも人は、笑ってばかりじゃいられないよ」  僕は愛妃に感謝した。  「愛妃のお陰で、僕は涙を取り戻した」  愛妃には話が見えていない。  「え? 取り戻すって……」  「愛妃、ありがとう」  僕は、愛妃の涙を拭く。    すると愛妃も僕の涙を拭いてくれた。  愛妃が言う。 「いつも笑っているなんて……。アイドルじゃないんだから」  僕は頷く。    そして久しぶりに涙を取り戻した僕は思う。  (ママが嫌がっても、僕は僕の涙を大事にしなきゃダメだ)  (だって、涙くんは、僕の涙だから)  僕は呟いた。  「涙くん、さよなら。そして僕の涙、おかえりなさい」  こうして僕は、涙くんを失って、僕の涙を取り戻した。   ――おしまい――
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