盲錠 ―モウジョウ―

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 恋は盲目というが、盲目になる前に、盲目にすらなれなかった生乾きの終わらせたい恋もある。    まだはっきりと見えなかった愛とか恋とか、そんな中学三年生の初恋のこと。    男は名前を付けて保存、と誰が言ったかとても的を射ている。俺の脳内PCにアクセスするとばっちり失恋フォルダの中、個々に好きだった人のデータは名前を付けて保存してある。ただ時間の経過とともにデータ破損していて、もはや開くことのできない忘れてしまった恋もある。いや、忘れてしまったというと未だに引きずっているようで語弊があるな。正確にはもう興味の欠片もなくなってゴミ箱に捨てたデータもあるといったほうが正しい。    でも初恋だけは違った。今でも初恋フォルダが失恋フォルダと別に区分されている。    とはいえ二五歳になった今、十年も前の、それも中学生の恋なんていう恋愛そのものをまるで理解していないレベルの代物が未だ乾ききっていないなんて、相手からしたら気持ち悪いかもしれない。というか俺自身が気持ち悪いと自認している節がある。  初恋なんて皆そうやって曖昧なまま始まってなんとなく終わる。それでそっと美化される魔法の宝箱にでも入れて大事な思い出としてとっておけば良いものを、今になって掘り返そうなんて迂愚(うぐ)で滑稽。  どうして別れたのか、どうして好きだと言えず別れを拒まなかったのか。せめて理由だけでもわかればこの初恋の後悔とも折り合いがつく。  彼女と別れてから高校も違えば社会人になった今でも関係は一切ない。俺から連絡したいと何度も思ったが、しょうもない矜持としつこいと嫌われるのではないかという恐怖から何も行動することはなかった。  しかし、意を決して俺は十年ぶりに彼女へ連絡し、再会の約束をしたのである。
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