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109 満月の夜、黄金の毛皮
ある満月の夜――俺の体は、毛だらけとなった。
そうだ。
つまり狼族である俺は、満月の魔力に誘発され――人狼となってしまったのだ。
全身にぶわあっと生えてゆく、豊かな金の毛皮は毛足も長く――みるみるとこの顔は前へ伸び、狼の顔そのものになって――ボトリボトリと落ちたのは上下の犬歯、その歯茎からたちまち、ぐうっと鋭く大きな牙が生え、生え変わり――この毛だらけの、固く黒い肉球が生まれた両手両足、それの爪は黒く染まって、厚く屈強になっては肉を裂けるようにと先端が尖った上――耳は頭に移動して生え、金の毛だらけの三角になり、ピクンピクンと動かすも容易い。――おまけに、金のふさふさした尻尾まで、尾骨から生えてしまった。
「…グ…ゥゥゥ゛…――。」
いや、これは毎月のことであり、俺にしてみればそう驚きも何もないことだ。――ちなみに、俺の故郷のこの漢服…こうした人狼化に適しているため、かなりよく伸びる生地でできている。…尻尾に関してはもはや、尻の部分を突き破るようにして生えてきてしまうのだが(毎月縫いざるを得ない)。
また、特にその変化の際に、痛みがあるというんでもない。犬歯が抜けるため、多少歯茎からは血が出るものの、そもそのとき歯の根がむずむず痒いくらいで、案外ぽろりと易く抜け、また勝手にずうっと歯が生えてゆく程度の感覚しかないのだ。
ただ全身の様相が大きく変化するために、一時的な悪寒と熱が出るのはいつものこと、またそのもぞもぞとした不快感に思わず唸ってしまうのも、まあ常なのだが――しかし、何よりも俺が気掛かりであるのは、何もこの身の大変化によるものではなく……この日に、限って。
部屋の扉の前で頭を抱え、全身の筋肉が熱を出したときのように震えていたばかりに、はぁ、はぁと息を切らしている俺の、この変貌への有り様を――。
「………、…」
常日ごろ俺を避けていたユンファ様も、さすがに呆然と見届けてしまったらしい。…彼は寝台に腰掛けたままにぽかんとし、目を点にして固まっている。――俺はその実、ユンファ様には初めて、この人狼の姿を見せたのだ。――彼、さぞ驚かれていることだろう。
「…ゆ、ユンファ様…俺です、ソンジュでございます…」
そう、慌てて正体を確かにしておく俺だ。
というのも…今日に限ってユンファ様には、夜伽の予定が入っていなかった。――ユンファ様を抱く者によっては、護衛として部屋の中にいる俺を邪魔に思い、出て行くように言い付ける者もいる。
まあ、そうでない者もなぜか多いが――できる限り俺は、近くでその人を守らなければならないものの――であるから俺は、満月の夜において、つがい合うにもこうして俺が側で狼へと変貌を遂げてしまうと、その客人の気を散らせてしまうだろう…などと理由を付け、そのときばかりは、暇をもらうようにしていたのだ。
現に、俺のこの人狼と化した姿――このノージェスではかなり物珍しいものであり(そもそも狼族自体が珍しいのだから当然だが)、俺のこの姿を見て、あまりの恐怖に失神した者までいたとなっては、もう。
そうともなれば俺は、いつもなら自分に宛てがわれた屋敷の自室に籠って人目を避け、一晩やり過ごしているのだ――あるいは戦場ならそのまま戦う――が。
そう…いつもならば、そうであったのだが――。
今日はその夜伽の予定がない日であるため、どうしても俺は、暇をもらう理由をつけられず。――いや別に、ユンファ様にこの人狼の姿を見せたくなかった、というわけでは決してないのだが。
まああるいは、今宵もジャスル様がふらりと気まぐれに訪れるやもしれぬが、少なくとも客人やらの予定はない。
そうした結果――夕方ごろ、寝台に腰掛け、何か丹念に本を腿の上に広げて読んでいたユンファ様に、俺がめきめきと人狼となった姿を見せてしまうこの運びとなったのである。
「…ユンファ様…ソンジュ、でございます、本当に……」
「………、…」
そして今もなおユンファ様は、その切れ長の目を丸くして、この部屋の扉の前にいる俺を凝視している。
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