114 見ている夢を拒む

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114 見ている夢を拒む

                 そうして俺は、ときおりユンファ様とぽつぽつ何気ない言葉を交わしながらも、結局一皿に盛られた肉をすべて、彼に食わせてもらった――。  食い終わってから厚く感謝を伝えたところ、ユンファ様は気にするな、困ったときは助け合うべきだ、とその労力を誇るでもなく――そのせいで自らの食事がまるで進まなかったというのに、やはり心優しいお方だ――そして今は彼も、平らげた花の次、割ったザクロの果実をひと粒摘み、またその口の中へと入れる。   「…………」   「………、…」    美しきことよ。  小さなザクロのひと粒では当然かもしれぬが、咀嚼する様においても静々と小さく、ほとんどはその赤く艶のある唇がわずか動いているばかりにさえ見える。  飯を食うにもこれほど上品で艶めかしく、これほどに美しいとは――。   「……、…、…」    ユンファ様はそのひと粒を、また専用の小壺へと静かに吐き出し――ぷちり、ザクロの実をもうひと粒摘むと、俺に横顔を向けたまま。   「…蝶の食事は、そんなに物珍しいかい…?」    そう俺へそっと尋ねては、またその赤く艶めいた小さな実を、そのふくよかな唇で食む。   「…いえ、物珍しいというより……、…」   「……?」    そこで言い淀む俺に、ユンファ様が不思議そうな顔をして振り返る。――物珍しいからというのではなく、俺はユンファ様に見惚れていたのだ――しかしその正直なところを言えば、また拒まれるとわかっている俺は、…それ以上は何も言えず。  何でもありませぬ、と鼻から抜けていった困った笑み、ごまかしに、長くなった鼻の、その黒く濡れた鼻先をポリポリと掻きながら俺は、顔を前へ、目線も伏せる。   「……、……」   「…………」    気まずい沈黙が、俺の頭を、肩を重たく伸してくる。  …はぁ…とため息をつく俺に、ユンファ様が隣でふふ、とほんの小さく笑った。   「……どうしたらいいのかな、僕は…」 「………、…」    振り返って見れば、その憂鬱な伏し目がち――黒々としたまつ毛が震えている。…口元から下りていく最中のその小さな壺――ゆるく合わさった、ふくよかな唇。…諦めを宿した、その白んだ目元の、長いまつ毛の先。   「…ソンジュに優しくされたり、見つめられたり、…君の側にいると、僕はいつも馬鹿な夢を見そうになるんだ…。もうそんな夢を見ることは、馬鹿なことだとはわかっているのに……」   「……馬鹿なこと、などでは……」    俺は緊迫した自分の胸に、息が止まりそうになる。  …ユンファ様はまた、俺のことを見てはくださらなくなった。――先ほどのことは最後まで言わなかったが、…察してしまわれたのだろうか。  彼は伏し目がちなまま、両手で半分に割られたザクロを包み込むように持ち、腿の上のそれをぼんやりと見下ろしている。   「…いや、馬鹿なことだ。もうさすがにわかってる…――でも、もしあのとき、僕がソンジュの手を取って逃げていたら…、どうなっていたのだろう…? 今更、僕は愚かにも、少しだけ悔やんでいる……」   「………、…」    まだ遅くはない。――俺はそう考えている。  …今すぐにだって、ユンファ様の手を取り、俺はこの籠から二人逃げ出したっていい。――そう考えている俺と、一方もう全てが今更だ、もう手遅れだと考えているらしいユンファ様は、やはり俺のことを見てはくれず。 「…お花、いつもありがとう…。でも、もういいよ。わかっているから…、ソンジュの心根ではもう、僕を愛してくれていないこと、これでもよくわかっているから……」    俺を見ない、その薄紫色の瞳。  目を瞑った、切れ長の白いまぶた。   「…ユンファ様、俺はいまだ貴方様を……」   「…ソンジュは優しくて誠実だから、きっとあの夜の誓いに縛られているだけだ。いや、それは当然だよ。今の僕を見て幻滅するのは、当然だ…。しかし、だからといって僕は別に、悲しくなんかないし、寂しくもないよ…――もういいよ…、ねえ、ソンジュ……」    俺に最後まで言わせず、薄く開いたその目――彼は、半分ほどに減ったザクロの身を、寝台の上へと避けた。…あとはまた、明日の朝に、小鳥たちへそれを与えようというのだろう。  そしてユンファ様は、真剣ながらも切ない目をして、俺へと振り向いた。       「…ソンジュは僕と共に、この籠に囚われることもないだろうに…――君だけでも、自由になれる方法はないのか…?」            
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