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91 正解のわからない後悔
――やっと終わった。
しかしそれは、一旦は、と付くものである。
「………は…、…」
俺にとってもやけに長い、いつもよりも長い、いやに長ったらしい、永遠の苦行にも近しい――この“婚礼の儀”、いつもよりいくらも地獄の時間であった。
自己嫌悪したって致し方ない。
わかっていても、無理がある。
今に取るべき正解の行動は、なんであった?
ジャスル・ヌン・モンスの背を斬りつけることか?
はたまたこの場でユンファ様を貶めた男どもを、皆殺しにすることか?
ただ穏やかに制止することなど、到底殺しでもしなければできなかったことだろう。――ジャスルを始めとしたこの者どもを斬りつけ、殺し、ユンファ様を攫うほかに…この乱交騒ぎを止める方法はなかった。
しかし、それは本当に、ユンファ様にとっての救いであったのか…――俺に生きろと、生きて幸せになれと言い、たとえ自分がどうなろうとも止めるな、助けるな、何もするなと俺に言ったユンファ様にとって――この汚辱の宴を血に染めることは、その人の覚悟を踏みにじる真似だったんじゃないだろうか。
人殺しをしてでも、愛しい人を助け、止めるべきであったのか――それとも、ただこうして眺めているだけだった、この俺の惨めで情けない選択こそが、正解であったのか……――後悔をしていながらも、未だなんら正解がわかっていない俺には、その後悔すら上手いことできぬ。
「……はぁ…、はぁ……」
ぐったりと濃い紅の座布団に投げ出されたユンファ様の体――全身の肌がうす赤く染まり、精にまみれてぎとついて、彼の細長い裸体は、そこに力なく横たえられている。
「ふーっ、ふー…それユンファ、これをしておけ。」
「……ぅ…っ」
ジャスル様の精力は凄まじく、丁度十発をユンファ様の体内に吐き出したその人は、先から徐々に太くなった専用の“栓”を、ユンファ様の白濁が溢れ出ている蕾にぬぷんっと差し込んだ――すっかり敏感になった彼は、それだけでビクンと軽くも腰を反らせる――。
そして疲労と絶望に虚ろな顔をし、ぼーっとしている彼の下腹部を撫で――にまりと笑うジャスル様は、ピタピタと彼の頬に、半勃ちのモノを叩き付ける。
「はよぉワシの子を孕めよユンファ、早いところ子を成せば、お前も楽になるんだぞ…? なあ…」
「……う…、はぁ…はい……」
ユンファ様はぼんやりと、ただ機械的に返事をした。
彼の体は、この宴会場にいた俺以外の男どもが吐き掛けた白濁で穢されている。
――言い伝え…男の精の匂いを嗅ぐと発情し、女は排卵する…当然男根のあるユンファ様が女性でないのは確かながら、彼が子を宿す側であるからこそか。…今回においてもそうしたのだろう。――大義名分としては、だからこそ、この宴会場でまぐわったジャスル様だ。
しかし――。
“「……残念ながら、蝶は…心からお慕いしている方とでなければ、子を成すことはできません……」”
もしユンファ様の、あの言葉が事実ならば…――それもこれも、無駄なことだ。
あるいはもう、俺の子が彼の腹に宿っている可能性だってある。――しかし、もしこれでユンファ様が俺の子を懐妊していた場合、…その子はジャスルの子として生まれ、その男を父として育てられるのか。
「……、…っ」
俺は密かに、唇の裏のやわいところを噛み締めて、滲む血の味を慰めに舐めとるばかりだ。
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