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捨子は、生まれた時から、障害があった。
顔は歪み、知能も低く、足も曲がり、背も伸びなかった。
捨子を産んだ母親は、自分の産んだ子に、捨てたい子供「捨子」と名付けた。
もう、名前なんかどうでもよかったのだ。
「お前なんか、産まなければよかった」
母親は、口癖のように言っていた。
捨子は、大きくなるにつれ、自分がいかに醜く、頭が悪く、のろまなのかと、いつも嘆き悲しみ、死にたくなった。
何度も、死のうとしたが、死に切れなかった。
こんな自分が生きていて、何の意味があるのだろう。
生きていたって、人に迷惑をかけるだけだ。
いつも、そう思って、悲しくなり、絶望した。
その日も、道行く知らない人に、「バケモノだ」と言われた。
捨子は、もう悲しくて耐えられなかった。
「死のう。今度こそ」
捨子はそう決心した。
死ぬなら、せめて青空の下がいい。
そう思った捨子は、青空に近い高いビルから飛び降りることにした。
だが、丁度その時間、そのビルのエレベーターは点検のため、止まっていた。
捨子は、仕方なく、階段を上った。
すると、途中に、おばあさんが、大きな荷物を持って、必死で階段を上っていた。
捨子は、そのおばあさんを見て見ぬふりは出来ず、言った。
「荷物……持ちましょうか?」
おばあさんは、捨子を見て、驚いたが、すぐに笑顔になって言った。
「ありがとうよ、じゃあお願いしようかね」
それから、捨子は、重い荷物を持って、階段を何百段も登り、やっとおばあさんの部屋に着いた。
おばあさんは、とても感謝して、汗だくの捨子に言った。
「ありがとうよ。本当に助かったよ。麦茶でも飲むかい?」
そう言って、コップに入った冷たい麦茶を出してくれた。
捨子は、一気に飲んだ。
美味しかった。
これまで食べたものの中で、一番美味しくて、捨子は、何だか泣けて来た。
おばあさんは、そんな捨て子に、優しく言った。
「あのね、どんな人も、生まれたからには、生きなきゃいけないものなんだ。どんなに辛いことの中にも、いい事は、きっとある。今の麦茶は美味しかったろう?」
捨子は、死ぬのをやめた。
生きるんだ。
どんなに辛くったて、生きてさえいれば、あの美味しかった麦茶のような事が、きっとある。
生きるんだ。
生きるんだ。
生きるんだ。
捨子は、自分自身に刻み込むように、強く思った。
了
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