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「忙しくなりますね。煙草はほどほどにして、健康管理もしっかりして下さいよ」
「俺が不健康だって言いたいのか?」
「はい」
颯太はうなずいて、わざとらしくニッコリ笑う。こんな会話を前にもした覚えがある。すると歌留多が上体を起こして声を上げた。
「もうこうなったら、このストレスを初売りで発散しよ!出口さんも付き合ってよ」
「おい、新年早々無駄遣いすんなよ」
再びテーブルに頬をくっつけた歌留多が、ジト…と恨めしげに出口を見た。出口はふいっと目を逸らす。
「さてと。そろそろ年越しそばの準備をしようかな」
そう言って立ち上がった颯太が客間から出て行った。あ、逃げたな。
「俺も一服してくるか」
「あっ、逃げた」
煙草とライターを持って急いで客間から出て行く出口に、一人残された歌留多が「二人とも冷たい!」と不満をたれていた。
出口は後ろ手で襖を閉じて短い廊下に出ると、窓の向こうに広がる夕日に染まり始めた冬空をぼんやり眺めながら煙草に火をつけた。
カラカラと窓を少し開ける。氷のように冷たい冬の風が流れ込んできた。今年が早くも終わろうとしている雰囲気の中、ふと考える。
『マーブル模様の呪い』という、一つの呪いがこの世から消えた。
しかし人が作り出した凶々しい“呪い”は、まだこの世にたくさん存在する。
今もどこかで、誰かが誰かを呪い殺しているかもしれない。
その“呪い”によって、自身が殺されることを知らずに。
人を呪い殺す方法なんて知らない方がいい。
知りたくもないし、もう関わりたくもない。
来年は平穏な暮らしをして、はやくこの街に馴染みたいものだ。
「…初詣は、あいつらと一緒におみくじでも引きに行くか」
らしくないことを思いながら、出口は笑みを浮かべて煙を吐いた。
【了】
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