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プロローグ
とある田舎の小学校で、三年生がマーブリングの授業を行っていた。
各自が机の上に広げた道具を使って、様々な形のマーブル模様を生み出している。楽しそうな子供達の声が響く中、女性担任が机の間を歩きながら作業の様子を眺めていた。
次々と用紙に写し出されるマーブル模様は、男女ともに明るいニ色の色でできている。
青と緑。
赤とピンク。
紫とオレンジ。
黒と、–––
急に、暗いマーブル模様が目に飛び込んできた。
担任はその生徒の机の横で思わず足を止める。用紙に写し出された濃い色のマーブル模様は、黒一色で作られていた。
一人、無言で作業をしている彼女の名前は横田織絵。
大人しい子だが優しくておっとりした性格の彼女は、マスコット的存在として皆に好かれている。
けれど彼女には一つ問題があった。
強い霊感があり、幽霊が見えているという噂があることだ。
「織絵ちゃんは、黒色が好きなのかな」
織絵はそう声をかけてきた担任を見上げたあと、悲しげに目を伏せて小声で言った。
「校長先生は、この色の模様に呪われたから、死んじゃったんだよ」
「え?」
「校長先生の全身が、この模様に染まってるのを見たの。それからもずっと、この模様が校長先生から消えることがなくて…。そのまま校長先生、死んじゃった」
織絵の言葉に担任は息を呑んだ。
校長は一週間前に、車で電柱に激突する自損事故で亡くなった。高齢だったため前方不注意だろう、寧ろ子供達を巻き込む事故じゃなくてよかったと、職員達の間では同情薄く囁かれていた。
「織絵ちゃん。周りの子にその話はしちゃダメよ。みんな怖がっちゃうからね」
担任は背筋に悪寒を感じながらも、頬に無理矢理つくった笑みを浮かべて言った。
「まだ時間あるから、もっと明るい色を使って、もう一回作ってみようか」
「……」
織絵は黙ったまま小さく頷いた。
担任は少しホッとしたが、誰かに見られているような気がして、斜め後ろを振り返る。女子生徒が、じっとこちらを見つめていた。まるで睨みつけるように。
彼女の名前は、阿墨竹子。
長い黒髪とほっそりとした体つきに色白。伸びた背筋から育ちの良さが感じられる。
担任は首を傾げた。そして気づく。竹子が見ている相手が自分ではないことに。
竹子の強い視線は揺らぐことなく、織絵だけに注がれていた……。
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