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第一章 背後にいるもの
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令和五年 秋–––。
「ふぁあ…」
あくびをして、スマートフォンの時刻を確認する。九時ジャスト。
布団から体を起こして、枕元に置いてあった煙草の箱とライターを握りしめて立ち上がる。
四畳半の和室から短い廊下に出ると、窓の向こうに広がる雲ひとつない青空をぼんやり眺めながら煙草に火をつけた。有毒な煙が肺を満たし、ふぅ、と息を吐く。
東京で働いていた出口春が仕事を辞めて、愛媛県の内子町に移住し早三ヶ月が経った。
独身の一人暮らしに選んだのは、木造平屋建。
築年数不明の月二万五千円。トイレや浴室、洗面台などの水回りは改修済み。二台分の駐車場あり。内子町の中心地からは離れているが、徒歩でいける範囲に小さなスーパーがある。
無職の自由気ままな田舎暮らしに、今のところ不満はない。
「…寒っ」
窓の隙間から流れる風がカタカタと小さな音を立てた。
出口は身震いすると、煙草を咥えて廊下の突き当たりにある洗面台に向かいながら、頭の中で今日は何をして過ごそうか考えた。
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