第一章 背後にいるもの

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 顔を洗ったあと、すぐ真横にある洗濯機の電源を入れた。  時間は腐るほどある。今日は天気もいいし、掃除洗濯を済ませたら遠出のドライブでもしよう、そう考えた。  掃除洗濯を済ませたあと寝室に戻り、着替えを始めた。  最後に忘れないように、左手首に漆黒の数珠をつける。これは亡き祖母がくれた、霊障から身を守ってくれる御守りだ。  母方の血筋の影響で霊感が強い出口は、幼少期の頃から霊の影響を受けてよく体調を崩していた。この数珠は霊的傷害から身を守ってくれるだけでなく、日頃から見たくないものが見えてしまう厄介な力も抑えてくれた。 ■  午前中から数時間車を走らせて、ところどころ紅葉し始めた山々を景色にドライブを楽しんでいると、いつのまにか昼を過ぎていた。  朝から何も口にしていない胃が空腹を訴えている。  適当な店を見かけたら入ろうと思ったが、急カーブが続く国道沿いで見かけるのは、すでに閉店して長いこと放置されたドライブイン、レストランの建物だった。 「はー、どうすっかなぁ」  やれやれと呟いた出口は、路肩にある広いスペースに車を停めた。スマートフォンを取り出して、ついでに煙草に火を付ける。  この辺りの地域で食事ができそうな店を検索すると、古民家カフェ巡りを趣味とする一般のブログサイトがヒットした。 『深ヶ集落–––内子町出身の若夫婦が営む古民家カフェ』という見出しが目に留まる。 「深ヶ(ふかが)集落か…」  そのカフェは偶然にも、この先をもう少し行った山村集落にあった。山菜料理を楽しめるランチメニューに惹かれた出口は、カーナビに片手を伸ばして住所を打ち込んだ。
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