エピローグ

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 一日、一週間、一ヶ月–––。  あの出来事から、あっという間に日々が過ぎ去っていく。 ■  大晦日の昼過ぎ。ピンポーン、とチャイムが鳴った。  出口が玄関を開けると、膨らんだエコバッグを掲げて笑った颯太と歌留多が「お邪魔しまーす」と声を揃えて勝手に上がり込む。  いやこの光景前にもあったような……あぁ、クリスマスイブか。あの時はケーキとチキンの箱を持って来て、勝手にクリスマスパーティーをされたな。 「どうせ春さんは一人寂しく年越しをするんだろうと思ったから、来ちゃいました」 「三人で年越しカウントダウンして、初詣に行こー!」 「いや待て。まさかお前ら、泊まっていくつもりじゃないだろな」  二人は揃って「え?そうだよ」とキョトンとした顔を見せて言った。出口は深くため息をつく。完全にナメられてる…いや、甘えられてるな。 「お酒のつまみになりそうな物買ってきました。あと年越しそばの材料です」 「私はお菓子と〜、愛媛みかん持ってきたよ!出口さんみかん好き?」  早くも客間に移動してエコバッグの中身をテーブルに出す若者二人に、出口はもう諦めて好きなようにさせた。  年越しそばは夕飯として食べることにして、三人はテーブルを囲んでお菓子をつまみながら談笑する。 「そうそう聞いてよ!榛名さんね、今度は既読無視するんだよ。未読をやめろってしつこく言ったら、次は既読無視ってコレどう思う!?」  ひどくない!?と怒る歌留多に、出口はみかんの皮をむきながら、またかよ…と口にはせずに呆れ返る。  歌留多は何度か榛名の病室まで足を運んで、その際に連絡手段をゲットしていた。だが、先ほどの言葉通りに榛名からはまったく相手にされていないようだ。 「来年には榛名さん、仕事で京都に引っ越しちゃうしさぁ。そうなったら簡単には会えなくなるし、てか向こうは私のことなんて綺麗さっぱり忘れちゃうだろうね!」  う〜と唸りながら、テーブルに突っ伏す歌留多。おかしいな酒は飲んでないはずなんだが。 「歌留多、あんまりしつこくしすぎると榛名さんも嫌になって距離を置くと思うよ。これはどうかな。『押してダメなら引いてみろ』作戦」 「え〜、うまくいくかなぁ」  出口はみかんを口に入れながら、歌留多の隣に座っている颯太を見る。颯太はやれやれと困った顔で笑っていた。  出口が気づいているのだ。颯太はもうとっくに気づいているだろう。歌留多が榛名に好意という名の恋愛感情を持っていることに。歌留多本人がその気持ちに気づいているのかは不明だが。  出口はつけっぱなしのテレビに視線を向けて、一人で榛名を見舞いに行った日のことをぼんやりと思い出す。その時にそれとなく歌留多のことをどう思っているのか聞いてみたが、榛名は眉間に皺を寄せて悩ましげな表情を見せ「まともに相手する方が疲れます」と言っていた。歌留多の猛アピールにお疲れな様子の榛名には、出口も同情したものだ。 「そういえば。春さんも来年から新しい会社で働くんですよね」  颯太が話題を変えて出口に話を振った。出口はテレビを観るのをやめて「あぁ」とうなずく。  前の会社の同僚から紹介してもらった会社に面接をして、無事に再就職が決まったのだ。来年の春から社会復帰。無職生活も残りわずかだ。
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