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番外編:喧嘩(前半)
「馬鹿ッ!!熊狩の分からず屋!!!!」
顔を真っ赤にして両目にいっぱい涙を浮かべて怒鳴った琥太郎。
間違えたことを言ったつもりはなかった、無かったのはずなのに―――…
* * *
(ばーかっ、熊狩の馬鹿ッ!!!)
オレなりに不満をぶつけたつもりだったのに、まだ腹立たしい気持ちが治まらないのは、”ちょっと外で頭を冷やしてくる”。しょんぼりと肩を落として出て行った家主がいるせいだ。
普通どう考えたって家出するのは居候であるオレのはずなのに、ドスドス!と怒りに任せて玄関へ向かうオレを追ってきた低音ボイスに身の危険を感じて固まってしまった。
――――コマンドよりも熊狩の低い声の方が、よっぽど怖い。
(そういうところも嫌だって言ってんのに……あの馬鹿、いつ帰ってくる気だよ?)
外と同じく真っ暗なスマホの画面にため息が出た。
熊狩というパートナーを見つけられたおかげで心身ともに回復したオレは、一カ月前からカフェでアルバイトを始めた。本当はもっといい時給の夜勤とかもやりたかったんだけど熊狩は昼職だし、お互いの生活時間が違い過ぎるのもよくないと思って相談をして決めたことだ。(案の定、夜職と掛け持ちは反対された。)
飲食店故に忙しい時間帯もあるけど仕事を丁寧に教えてくれるおかげで接客にも慣れてきたし、店に来た熊狩もいいお店だと褒めてくれた。
そこまでは良かった――― そして今日は新しい職場での初給料日だった。
「いらないよ」
君はそんなことしなくてもいいんだよって風に微笑まれて、サッと血の気が引いた。
家賃とスマホ代、電気と食費などなど……少ない額かもしれないけど封筒にまとめた大事なお金。
それを、いらないの一言で片づけられてしまった。
確かにオレは非正規だ。自分に何ができるか分からなくてはじめたアルバイトだけど、生活のために一生懸命稼いだお金だ。
それを………悲しくて悔しくって、ちょっとした言い合いになったらもうダメだった。
「対等だって言ったじゃん!オレが生活とかも全部、お前に甘えていいと本当に思ってるの!?」
「え…、そんなこと思ってないぞ!?これは琥太郎が頑張って稼いだ給料だろ?もっと欲しいモノとか貯金したいとか」
「んな話してないよ!アンタはオレの保護者のつもりなのか!?」
”一緒に生活をして、お互いの時間を大事にする。”
オレはそうしたいだけなのに……あぁどうしてだろ。Subにすこぶる甘い熊狩の背後に知らない知らないSub達の影がチラつく。「こうしてほしい」「もっと楽させて?」、そうやって熊狩にすり寄っているのが見えてしまう。
元パートナーか恋人かは知らないけど、そんな奴らと俺を一緒にされてるみたい腹が立つ。
「落ち着いて。ほら琥太郎おいで、ちょっと話そう?」
勝利は、 オレの――――、オレのDomなのに!!!
『馬鹿ッ!!熊狩の分からず屋!!!!』
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