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番外編:喧嘩(後半)
(熊狩視点)
…………どうも、恋人を泣かせちまったクソ野郎です、はい。
真っ暗な公園でひとり、ブランコに座ったままボーっとして既に一時間になる。
(はぁ―――――――――――どうしよう、俺の琥太郎めっちゃいい子)
頭を冷やそうと外に出たはずが、かれこれずっとこの状態で悶絶とグダグダの繰り返しだ。
だって答えなんてとっくに出ている。生活費を琥太郎が気にしていると感じてたなのに一度だって話し合わなかった俺が悪い。
(俺も臆病野郎なんだよなぁ、結局)
ふーっと息を吐き真っ暗な空を仰いで途方に暮れてしまう。
昔っから金銭が絡む話ってのはデリケートで人間が最も敏感になる話題だ。それで俺の場合は所謂ホス狂に走ってしまった恋人と揉めに揉めてた挙句、超一方的にフラれた嫌な過去がある。
第二性の問題以外で頭を抱えたのはアレが初めてだ。
理不尽な別れ方で相手に未練もないが、そっからはトラブルになりかねない話題として自然と避けてしまうんだ。
「………や、ちゃんと話し合うつもりだっただろ?」
ボヤく言い訳です、見苦しい事に。
だけど琥太郎一人くらい別にどうにか出来る。
贅沢を沢山させてやるって約束は出来ないが、これまで通りの生活なら問題ない。それに琥太郎が働くにあたって家の近くのカフェで昼間のアルバイトを決めてくれたのは俺の要求に従ってくれたからだ。なら俺が多めにサポートするのは普通の事だろ?
さらにお互いの経済事情を上げると琥太郎は長い期間クソDomに騙されてたせいで貯金もほぼゼロ状態だ(手荷物を漁ったら通帳があった)。
その大事な給料は俺にじゃなくて自分の貯金に回してくれ―――なんてことを言ってみろ?
【俺がいつ楽させてくれって頼んだよ!?アンタがその気ならオレは出てく!!】ってブチ切れたに違いない。俺を押し退けて出て行こうとしたはずだ。
「チッ、今のうちにサブネットで丈夫な鎖を買っとくか」
「なに馬鹿言ってんの」
――――――!?
ビクッと肩が大きく震えた、え…は??なんで此処に琥太郎がいるんだ!?
「こ、琥太郎!?」
「スマホの電源切るなよ…」
「え?あ…、悪い。電池切れだった」
「……」
「琥太郎さん…?」
腰を上げて黙る琥太郎に近づく足を…あと数歩のところで止めた。
俺はまだ、琥太郎を納得させるだけの言葉がまとまってない。
「まだ怒ってるんじゃないのかって…心配した」
「?怒って?それは君の方では??」
「………帰ろうよ、オレだって怒ってない」
ぎゅっと袖を握られた瞬間、ぶわっと毛が逆立った。
なんだこのシチュエーション?普通は迎えに来るのは彼氏側、いや琥太郎も彼氏なんだが…俺がそっち側ってアリか??
けどさ帰ろうって手を引かれたんだ、答えは一つしかない。
「うん、帰ろう。一緒に」
こうして無事に家に帰ったはずが、俺はパートナーから拷問を受けていた。
「いらないって言葉にはまだムカている。勝利の本心でもオレは頑張ったのに、ちゃんと認めて受け取ってもらいたかった」
「ごめ、すみませんでした…その件につきましてはきちんと琥太郎さんに納得してもらえる金額を算出すると約束します」
「それとオレを呼び止めた時にglare出してた……ちょっとだけど」
「マジ!?え、本当にすみません!アレは使おうと思って使ったんじゃなくって完全無意識です、この通り心から反省しております……なので、そろそろ」
「まだダメ」
なんでだよ!?すぐ下に俺の膝枕で繕いで優雅にテレビを観ている琥太郎がいるのに…!?
今すぐ触りたい触りたい触りたい触りたいー…のに繰り出されるNGは拷問だ!!
「…っ、琥太郎」
行き場のない手がぷるぷる震える。せめて首筋の匂い嗅ぎたい思いっきりスーハ―したい、触れていいのが膝だけとか今すぐ俺の手と膝の位置を交換させろ。でないと俺の理性が死ぬ。
「頼むから信じてくれ!確かに俺は勝手に君の生活をサポートしようとしてたけどこんなのは君が初めてだ。だから」
「熊狩の、オレを甘やかそうとするときだけ饒舌になる所が一番ズルい」
(ぐっ!?)
「……けど反省してくれたならいいよ」
「へ!?」
「オレだって悪いところ沢山あるから。言い合って直せるところは直そうよ…オレも喧嘩は得意じゃない」
恋人と喧嘩したことがないのはお互いサマってことだ。
あぁそうだ。怒ってないって、琥太郎は俺に言ってた。
「琥太郎、触るけどいい?」
「あ、待って。この特集観たい」
「ダメだ俺はマテってコマンド、ほんと無理」
end
あとがき
この後、たっぷり琥太郎は搾り取られてしまい翌日のバイトは遅刻ギリギリになってしまいます。
バイトある前日は絶対しない!!と琥太郎に叱られた熊狩は「やっぱ琥太郎は俺が養うか?」と真剣に考えてたり、いなかったり…
ここまでありがとうございました!
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