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家に帰ると、白い雪が舞うクリスマスツリーが飾られていた。
これは母親のお気に入りのツリーで、舞香がまだ高校生の頃に雑貨店で一目惚れをし、その日に嬉しそうに担いで帰ってきたのだ。
母のこだわりで、オーナメントはりんごとキャンディーとジンジャークッキーだけ。そのクッキーは母親の手作りで、クリスマスの数日前になると飾られて、当日にみんなで食べるのが習慣になっていた。
実は犬飼と言葉を交わしたあの日。彼の言葉が心に引っ掛かっていた舞香は、母親に教えてもらいながらジンジャークッキーを作ったーーが、出来上がったのは焦げ焦げになった真っ黒ジンジャークッキー。
その時に何故かはわからないけど、すごく落胆したのを覚えている。
作ってと言われたわけじゃない。勝手に作っただけ。あげるわけじゃないし、別に失敗したっていいじゃないーーそれなのに心は相当落ち込んでいた。
あの感情はなんだったのか、今もよくわかっていない。淡い始まりかけの恋だったのか、ちゃんと作れなかった自分に対する落胆なのか。
「舞香ー。クリスマスパーティー始めましょう」
母親の声で現実に引き戻される。
「はーい、今行くー」
犬飼に会ったからつい昔のことを思い出してしまった。もう彼は過ぎた過去のこと。今更気にしたって仕方ないーー。
それなのにパーティーの間も、片付けの間も、その事が頭を離れなかった。
「お母さん」
「ん?」
「あのさ、今からジンジャークッキーの作り方を教えて欲しい」
片付けを終えてピカピカになったキッチンを前にして舞香が呟くと、母親は十秒ほど黙ってから、
「……今?」
と低い声で呟く。
「うん、今」
明日の午後からのバイトに間に合うように帰るため、今しか時間がないのだ。
母親は大きなため息をつくと、
「一回しか言わないからね」
と、諦めたようにクッキー作りの準備を始めた。
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