口下手ジンジャークッキー

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「原田は覚えてないかもしれないけど、前に商店街のツリーを見ながらさ、ジンジャークッキーを食べてみたいって話をしたら、原田に『自分で作ってみたら?』って言われてさ、あの年に頑張って作ったんだけど上手く出来なくて……」  舞香は驚いた。彼もあの会話を覚えていて、しかも同じようにジンジャークッキーを作り、そして同じく失敗していただなんて。 「覚えてるよ、もちろん。でも……作った?」  犬飼は頷くと顔を上げる。しかし舞香と顔を合わせると再び視線を逸らしてしまう。 「あれから失敗した事が悔しくて、大学に行きながら夜間の製菓学校に通ったんだ」 「へっ⁈ 製菓学校⁈ 料理教室とかじゃなくて?」 「せっかくなら極めようと思って。バイトで学費貯めながら通って、だからこっちに帰って来たのは久しぶりでさ」 「し、知らなかった……」  そう言ってから手の中のジンジャークッキーに目をやると、舞香が作ったものより体のアイシングが豪華で、明らかにプロの技を感じる。  しかしあの会話が彼をここまで奮い立たせることになったと知り、少し心苦しくなった。  申し訳ないと思いながら、ジンジャークッキーを見つめていると、そのクッキーにわずかな違和感を感じる。  暗がりの中はよく見えないため、門柱の灯りのそばに近寄ってみた。すると手を繋いだジンジャークッキーの二人の表情が違うことに気付いた。 「あ、あのさ!」  突然犬飼の大きな声が聞こえ、舞香は体をビクッと震わせて彼の方に向き直った。 「いきなりどうしたの?」  するとようやく犬飼が舞香のことを真っ直ぐに見つめた。 「俺さ、あの頃は野球ばっかりやってて、野球バカって思われていたかもしれないけど、全然恋をしていなかったわけじゃなくて……気になる人はいたんだ」 「そ……そうなんだ」  このむずむずするような感情はなんだろう。聞きたくないような、聞きたいようなーー不安と期待が入り混じるような感覚。  寒さのせいか体が強張り、緊張から息が苦しくなる。 「いつも俺と同じところで笑って、試合に負けた時は一緒に悔しがってくれて、お腹が空くタイミングも同じだったりして……知らないうちになんか……好きだなって思ってて……」  二人はお互いの顔を見合わせ、同時に眉間に皺ん寄せて首を傾げた。 『一体何が言いたいんだろう?』  そんな顔で見つめ合ってから、このままでは埒があかないと感じた犬飼が、バイクから下りてズカズカと舞香の方に歩いてきた。
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