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「俺……その……原田のことが……ことが……うわぁっ! ダメだぁっ! あの、じ、ジンジャークッキーを見てくれ!」
あまりにも挙動不審すぎて、舞香は苦笑いをしながら彼からもらったジンジャークッキーに目を落とす。
彼が言いたいことはなんだろう? それにはさっき感じた違和感を探ることが必要な気がした。
すると手を繋いだ二人のジンジャークッキーの顔が、どことなく違うことに気付いたのだ。
よく見てみると、左側のジンジャークッキーは口をすぼめていて、右側は歯を見せて笑っている。舞香は同じように口を動かしてみる。
"栗"かな? それとも"海"? まさか"無理"とか? そう考えてぞっとする。
その時にある一つの言葉に行き着く。まさか"好き"……とか?
舞香は驚いたように顔を上げると、困ったように犬飼を見た。
「あの……このジンジャークッキーたち、もしかして何かお喋りしてたりする?」
犬飼は首が落ちそうなほど、何度も頷いて見せる。
「でも、どれが答えかわからないんだけど」
「えっ⁈ "好き"以外に何かあったっけ⁈」
その瞬間、二人の間が凍りつく。カチンと固まった途端、
「うわーっ!」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って! えっ⁈」
と二人揃って挙動不審になるが、犬飼が慌てて正気を取り戻し、両手で舞香の腕を掴んだ。
「いきなりごめん! 自分じゃ言えなかった時のために、クッキーに助けてもらおうと思ったんだ……ほら、あの時も卒業式も何も言えなかったからーー」
犬飼が言っているのは、二人でツリーを見上げたあの日のことだろう。
「そんな感じ、全然しなかったよ」
「だってバレないように気をつけていたから……でも好きだって言えなかったことをずっと後悔してた」
あぁ、そうか。私もはっきりと好きと自覚していたわけじゃないけど、友達以上の感情を感じていたのかもしれない。
「でもまさか今日再会できるなんて思っていなかったからさ、慌てて家に帰って作ってきたんだ」
「本当。プロ級だわ」
舞香も先ほど同じように作ってカバンに入れたけど、彼のを見てしまうと恥ずかしくて出せなくなる。
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